Co-Growth社が主催するシリーズセミナー「早期戦力化の新潮流」では、 先進的な組織がいかにして人材の持つ力を最大限に引き出しているかをテーマに、有識者・実践者に登壇をお願いしています。 第2回目のテーマは、年々社会的ニーズや市場が拡大している「フリーランス・独立プロフェッショナルの戦力化」。本レポートは、登壇者のお一人、ランサーズ株式会社 取締役 曽根秀晶氏の講演の記録です。
◆ランサーズ株式会社 曽根 秀晶氏
東京大学卒業後、マッキンゼー、楽天を経て、現在ランサーズの取締役 グループ戦略担当として全社戦略の立案、新規事業を主に担当。「個のエンパワーメント」というミッションのもと、「テクノロジーで誰もが自分らしく働ける社会をつくる」というビジョンの実現に向けて奮闘中。
目次
1.「採用」「正社員」「雇用」への既成概念を取り払い、働き方の可能性を広げたい
2.政府・企業・個人 それぞれの働き方大変革時代。終身雇用は限界を迎え、自らライフデザインを行うフリーランスの働き方が非常に増えている
3.人材=社員は古い。人材=社内外タレント。必要な時にプロ人材を活用するのがスマート(賢い)経営
4.フリーランス活用の成果5つと経営重要ポイント5つ
5.社外人材活用なくして企業の成長なし
1.「採用」「正社員」「雇用」への既成概念を取り払い、働き方の可能性を広げたい
弊社は、フリーランスタレントプラットフォーム「ランサーズ」を運営しています。個人の可能性・選択肢を最大限に解放する「個のエンパワーメント」をミッションに、「テクノロジーで誰もが自分らしく働ける社会」をビジョンに掲げて事業推進しています。
直近では、2019年6月1日に日経新聞で「#採用やめよう」というキャンペーン合わせてCM放映し、メディアでも非常に大きく取り上げていただきました。様々な議論が生まれ、、社会の大きな流れの中で注目をいただけたと思っています。新卒採用解禁日である6月1日に行ったので批判もありうると覚悟はしていました。我々は採用とか正社員とか雇用を否定するつもりはありません。ただ、「それしかないよね」という既成概念や固定観念にとらわれていることにより可能性を限定しているのでは、との考えから、既成概念をやめようと訴求しています。
雇用まわりの大きな潮流を簡単にお伝えさせていただいたのちに、我々のプラットフォームを利用しているクライアントで働き方をハックしている企業の事例をいくつかご紹介します。
2.政府・企業・個人 それぞれの働き方大変革時代。終身雇用は限界を迎え、自らライフデザインを行うフリーランスの働き方が非常に増えている
労働力人口は、実は今がピークで、今後は減っていきます。2030年には600万人以上の供給不足が発生し、2065年には労働力人口が4,000万人を割ると言われています。実際、採用市場における有効求人倍率は1.6倍にまで上がってきていて、例えば、エンジニアでは7倍を超えている状況です。このように人材不足が可視化・顕在化してきている中で、2019年5月に、経済界のトップである経団連の中西宏明会長とトヨタ自動車の豊田章男社長が、日本の雇用システムのキーであった終身雇用は限界である。終身雇用でやっていくことは難しい。と、直接的におっしゃったのは象徴的でした。
産業寿命が非常に短くなる一方で、人生100年時代と言われますが、個人の働くスパン、活躍できる・輝ける時代は長くなっています。つまり、1つの企業、1つの産業で、一生同じ形で継続的に活躍するのは難しくなってきています。1人1人がトランジションしながら、ライフステージによって自分の可能性を切り開き、ライフデザインをしながら生きていく時代になってきたというのが、背景にあると思っています。
だからこそ、自分の人生を自分自身で切り開くフリーランスの生き方・働き方が増えています。実際に、サイドワーカー、パラレルワーカーを含む広義のフリーランスは、非常に増えてきており、日本においては2015年から22%増え、労働力人口の6人に1人となっています。アメリカでは、現在は労働人口5,700万人の3人に1人で、2030年には半分を超えるとも言われています。正社員・雇用の働き方が半分を切り、マイノリティになる。広義のフリーランスが当たり前になり、マジョリティになる。そのような時代にグローバルは突入していき、日本も、徐々にではありますが、同じ方向へと進んでいます。スキルのある人、自分の今後のキャリアのトランジションを見据えた人は、パラレルワークなどを試しながら、いち早く自分のキャリアの探索をしているような状況になっています。
繰り返しになりますが、我々は正社員や雇用を否定はしていません。ライフスタイル・ワークスタイルに合っていれば、すごく魅力的な選択肢だと思っています。ただ、ライフステージによってそれらを選ばないことも選択肢として必要です。例えば、お子さんが生まれて正社員の働き方が難しくなった時、一時的にフリーランスや派遣などの契約形態で働き、希望すれば正社員に戻ってフルコミットもできる。というように、多様な働き方がシームレスにつながっていて、ライフステージによって選んだり行き来したりできるのが、これからの社会のあるべき形だと思っています。個人はそういった働き方の発想をすでに持っているが、企業がそれに追いついてないという感覚を、私は抱いています。旧雇用システムに基づいた正社員一括採用で、あれやっといてこれやっといてで通じるツーカーが楽だけれども、それを続けるのは難しい時代になっている。変わらなければならないが、どう変わっていいか分からない。というのが企業の本音ではないでしょうか。国・企業・個人とあったときに、国と個人はかなり変わってきている、もしくは変わろうとしていますが、企業が実は変わっていない。そこに日本の課題があります。
3.人材=社員は古い。人材=社内外タレント。必要な時にプロ人材を活用するのがスマート(賢い)経営
一方で、先進的な企業は社外人材をすでに活用し、新しい知見が取り入れられる、人材不足を解消できるなどのメリットを感じています。実際のところ、我々のプラットフォームを使っている企業も、変動費的にコストとして色々なリソース・人員を活用できる、多様な人材・アイディアを活用できるなどのメリットを非常に大きく感じています。いわゆる社員だけが人材ということでなく、フリーランスを中心とした社外タレントを、必要なときにうまく巻き込みながら活用する。これが企業の経営の新しい在り方であり、時代はそういう方向に向かっていると思います。以上が大きな潮流の話です。
続いて3つ事例をご紹介します。
・株式会社ガイアックス様:社長の大号令でフリーランス活用をスタート
ソーシャルメディアを中心としたウェブメディアの運営などをしている企業で、上田社長がシェアリングエコノミー協会の代表理事を務めるなど、非常に先進的なことをされています。同社では事業部門とバックオフィス部門の両方でフリーランスを活用されていますが、社長が「社外人材・フリーランスを積極的に活用しよう!」と大号令をかけたことからスタートしました。フリーランス委員会を立ち上げ、どうすれば社外人材を活用しながら事業を成長させていけるかと、経営者が真正面から覚悟を持って向き合った事例です。非常に面白い仕組みがあります。「1人あたり月に5万円分、必ず外注しなさい」と下限予算を設定しました。5万円分は、およそ20〜30時間分の業務にあたります。下限予算を設定すると、発注する社員は、「どの業務にどれくらい時間を使っているか」「どの業務が外注できるか」「どのように依頼するか」と考え始めます。自身の業務を振り返り、改めて設計することで、1人1人が自分のコア業務について考える。そして、外注して空いた時間で自己投資やお客さんに向き合うなど本質的な業務に取り組み、会社に還元する。というスパイラルを回していきました。
・株式会社電通デジタル様:フリーランス紹介サービスを有効活用し外注効率化
電通デジタル様が発注されているのは、主として資料作成、翻訳の領域です。広告の営業提案では多岐に渡るクライアントに向けて膨大な資料を作り色々な提案を行います。資料作成業務はどうしても属人化しがちで、業務のボラティリティ(変動性)も激しいため、生産性を高めながら解消していきたいとのご要望でした。クリエイティブを統一し、一つテンプレを作る中で、弊社のプラットフォームで「どんな人に頼めばいいのか」「その人に頼んで本当に大丈夫か」という顔が見えないことによるスキルマッチングへの不安が生じました。厳選されたフリーランスをご紹介することで不安は解消し、フリーランスを有効活用して資料作成を効率化できました。
・株式会社タナクロ様:オンライン上に大量の社外人材プールを作り、適時適所に発注できる仕組み
Eコマースの運用をされている企業で、社員数以上の社外人材を使われています。タナクロ様が発注されているのは、商品登録、コラム記事作成、ロゴデザイン、サイト・アプリのデザインなど様々です。大量の社外人材プール(オンライン上で、リモートで、適時適所に社外人材に対して発注できる仕組み)を作ったのが非常に特徴的かつ先進的だと思います。商品登録が典型的ですが、マニュアルをしっかり作成・管理した上で、社外人材のチームをエンゲージメントする担当者を設置。窓口となって社外人材への発注などディレクションを担ってもらうことにより、時間とコストを大きく削減し、同時に新しい商品開発にも成功し、大きく事業成長されました。
4.フリーランス活用の成果5つと経営重要ポイント5つ
1. 「社員でなければできない付加価値の高い業務」に集中できるようになった
2. 慢性的なリソース不足が解消した
3. 社員が育った(マネジメントの疑似体験)
4. 優秀な社員だけを採用するようになった
5. 新規事業や経営重要事項に向き合える
3つの事例に登場した企業がフリーランス活用によりどのような成果を得られたかというと、まずは、業務の全体像と負荷価値の高い業務が明確になり、付加価値のより高い業務に集中できるようになりました。そして、なんとなく忙しい、なんとなく人手が足りないではなく、どの業務にどれだけのリソースが足りないかが明確になり、慢性的なリソース不足が解消しました。それに付随して、マネジメント経験のないメンバーが、自分の業務を設計して誰かに切り出すというマネジメントの疑似体験をすることにより、育ちました。そして、本質的なコア業務を推進するための優秀な社員だけを採用するというように、社員に対する採用基準、採用方針にも非常に影響がありました。
1. 覚悟を持って経営者として意志決定する
2. ノンコア業務を強制切り出し
3. 「発注」ではなく「採用」
4. フリーランスにもフィードバックするなどノウハウを仕組み化
5. フリーランスを選ぶのではなく、選ばれる会社
経営の観点から何が重要かいうと、「1. 覚悟を持って経営者として意思決定する」とあるように、社外人材・フリーランスの活用に対して、経営者が意思と覚悟を持って向き合うことが非常に重要です。そして、「3.『発注』ではなく『採用』」とあるのは、発注という言葉を使ったり、採用をやめようと言ったりしていますが、究極的にはフリーランスの方も、その場限りのスポットで発注を終えるというよりは、継続的に仕事を発注し続けて採用に近い形でチームとしてエンゲージメントしていくという発想が多くなっています。そうすることで、毎回の「我々の会社はこういう会社で、こういう風な業務の切り出し方をして・・・」という説明コストが減り、社内外関係なく、社外人材を社内人材のようにバーチャル社員として、チームとしてうまく活用することができます。これはある意味で採用に近い形です。そのような発想をした時に、発注する側が選ぶだけでなく、実は発注する側も選ばれていることを知っていれば、より優秀なフリーランスの方に参画していただけます。例えば、ガイアックス様は、最初から通常の相場よりも高い価格で発注するよう社内でルール化しています。そうすることでファーストインプレッションが良くなります。継続的に依頼する中で、マッチするフリーランスの方には単価を上げてファンになってもらい、エンゲージメントを一層強めています。
これからフリーランス活用を始める方も、さらに深めていく方も、責任者を決めて経営者がコミットするのがまずは第一歩。その上で、コア業務とノンコア業務を明確に切り出すのがうまくいくコツだと思います。人材活用の枠組みはどんどん変化しますし、さらに先の話ではロボットやRPAの話も出てきます。アウトソーシングならぬインソーシングというキーワードが最近では出てきていますが、ノンコア業務だけでなくコア業務でも、外部の専門のプロフェッショナルを活用して、会社に無い知見をうまく外から取り入れる。社内外がシームレスつながる流れに今後はますますなっていくと思います。我々は、いい意味で、そこに機会と脅威を感じています。
5.社外人材活用なくして企業の成長なし
「社外人材の活用なくして企業の成長なし」小泉構造改革の言葉のようですが(笑)企業の人材不足が進む一方で、社外には優秀な人材がたくさんいます。彼らは仕方なくフリーランスなのではなく、自分のライフステージに合わせて積極的にフリーランスを選択しています。優秀なフリーランスにファンになってもらいうまく活用できれば、長く一緒に仕事をする機会が増えていくでしょう。企業が個人に一方的に発注するのではなく、企業と個人がパートナーシップを組み、共に価値を創出していく社会・世界が今後はどんどん広がっていきます。我々も企業と個人が協創できる社会を作っていきたいと思っています。ありがとうございました。
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●▲■ シリーズセミナー「早期戦力化の新潮流」とは社会的なニーズが益々高まっている「新人・若手の早期戦力化」を対象領域とし、毎回「発見」のある新しい取り組みを、感度の高いプロフェッショナルと共有していくことを目的としています。 1~2ヵ月に1度、刺激を得られ、つながりが広がる楽しい場にしてゆきたいと考えています。
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