営業パーソンの糧になる本

本コーナーでは、営業パーソンとして確かなキャリアを積み上げられた方に伺った「自分の糧になった本」のインタビュー記事を掲載してゆきます。

「プロデュース能力」「シンギュラリティ・ビジネス」by 高橋研さん – 株式会社アルヴァスデザイン

高橋研さん

株式会社アルヴァスデザイン 代表取締役 CVO
2000年、大手化粧品会社に入社。製品開発業務、パテント業務、研究所内人事業務、社内改革に従事する。2004年、ベンチャー人事コンサルティング会社に入社。営業担当者としての活動と並行して転職支援、研修講師を手がける。通信会社への営業プロセス改革プロジェクトでは、クライアントと合意した営業目標比で420%を達成。2006年、エム・アイ・アソシエイツ株式会社に入社。企業研修および営業コンサルティング業務、営業研修開発業務・営業研修講師業務を担う。2013年、株式会社アルヴァスデザインを創業。法人向けの営業人材開発支援、営業支援、営業アセスメント、人事教育支援を手掛けている。

本書は、課題解決型の提案力ではなく、ワクワクする未来を創る提案力を体系的に記した本です。この力を本書では「プロデュース力」と呼んでいます。著者は、「プロデュース力」を「一つのビジョンのもとに、人々の力を借りて『新しい何か』を創りだし、現状を変える能力のこと」と定義づけていています。
課題解決型営業はどの企業でも取り組んでいる手法ですが、誰が行っても近しい結果となるため、条件競争に巻き込まれます。課題解決型の力は大前提として必要ですが、他社との差別化を図るには、「プロデュース力」のように新しいものを創りだす力が重要になっていくと私は考えています。こうした力はハーバード・ビジネス・レビューでも取りあげられ、「インサイト営業」など呼び方には幅がありますが、大切との認識が広がりをみせています。

課題解決型営業とプロデュース力に基づく営業の具体例を挙げると、ファミリーレストランへのドリンクサーバー設置の営業の場合、課題解決型では、ターゲット層、流通実績などを分析し、潜在的な消費量を算出、現状とのギャップを埋めるための課題を探し、解決方法を提案する、という流れになるでしょう。ファミリー層がターゲットであれば、「現状ではファミリー層の来店数と目標数の間にこれだけのギャップがあります。子供の手の届きやすいところにソフトドリンクのサーバーを設置すればこのギャップを埋められるのではないでしょうか」という提案を行います。確かに納得はしますが、面白みはありません。

本書の「プロデュース力」に則ると、まず「子供が楽しめて、大人になっても楽しかった思い出が残り、自分の子供も連れて行きたくなる、親子三代にわたって楽しめるお店にしましょう。そのためには体験型のお店にしましょう」というビジョンを掲げた提案をします。その際、自分自身の体験も伝えます。例えば私であれば、次のような話になります。「以前7歳の娘と4歳の息子をファミリーレストランに連れて行った時、『パパは良いよね』といわれてびっくりしたことがあります。『パパは楽しそうだよね、沢山のメニューから選べて』と。見ると子供用のメニューはお子様セット一種類のみ、飲み物はオレンジジュースのみでした」
体験を元にすると具体的なビジョンを伝えられます。「子供は大人の真似をするのが好きですから、ドリンクサーバーの横にソフトドリンクを混ぜて作れるカクテルメニューを置いてはどうでしょう。オリジナルカクテルを募集してコンテストを開催するのも面白いですね」
ヒアリングをして課題をみつけるのではなく、相手が考えていないようなビジョンをぶつけます。

プロデュース型の提案では、ターゲットが大切です。経営者でも創業者、創業者一族、地域密着型企業や理念経営されている方には伝わりやすい。また、経営者でなくてもビジョンや熱い想いを持った方には通じます。一方、経済的価値のみを追求している経営者や、上からの指示に従って仕事をしている方には刺さりません。
私はビジョンを持つ方と一緒に仕事をしたい気持ちが強くあります。プロデュース型の営業に共感してくださらない方とはお取引につながらなくても良いとの姿勢で相手を見極めてお付き合いするようにしています。なお、そうした方々に辿り着くのは特段難しいことではないと感じています。「この件のGOサインを出される方はどなたですか?」、「これに取り組もうと言い出した方はどなたですか?」、「その方に一緒にお話を聞いていただくほうが進めやすいのではないですか?」などと聞くと、ビジョンや想いを持った決定権者に引き合わせてもらえることが多くあります。

本書は私の座右の書で、すでに20回以上読んでいます。あまりにも感銘を受けたので著者に手紙を書いて会いに行ったほどです。私はプロデュース型の営業を行うことこそがこれからの営業の価値であると考えています。昨今、AIの普及により将来無くなる職業が話題になっています。既存の業務を助けるのみの営業はAIに置き換わるでしょうが、新しいものを創る営業をする人は生き残るでしょう。時代が変わっても価値ある存在であり続けるために、本書の「プロデュース力」を日本中の営業パーソンに学んでほしいと思います。

本書は、未来のことを書いた本です。現在、世の中の情報量は倍々(=指数関数的)に増えており、2045年にはその増え方が垂直的になる「シンギュラリティ」に到ると言われています。情報量が増えると科学技術も指数関数的に発展すると斎藤氏は書いています。それから先に起こることを体系的に語れる人は一人もいないと言われていますが、逆にそれまでに起こることは整理・分類されています。同時翻訳のできる携帯電話ができる、ほぼ全ての臓器を3Dプリンターで作れるようになる、など。どんなビジネスが出来上がり、どんな技術が普及しているのか。本書ではそのさわりを教養として身につけられます。

私は最初に入った会社で先輩から「目的を捉えて仕事をしろ」と教わりました。未来を捉えることは目的を捉えることであり、お客様と目的志向で話をすることに直結すると思います。
また、実務において「3Dプリンターが我々にもたらす影響は何か」などの各論レベルで未来をお客様と話す場面はほとんどなくても、教養として身につけていると危機感やワクワク感を共有できます。「変化が激しい時代だからこそ、変わらなければならないことと変えてはいけないことがあります。変えてはいけないことを社内で共有し経営の軸を形成すれば従業員の方も歩みやすくなるのではないですか?」ともよく話します。

私は未来志向の本を読み漁っていた時にこの本に出会いましたが、著者の齊藤和樹氏は実は私の高校の同級生です。彼は一企業の管理部門の出身であり、テクノロジーの専門家ではありません。それでもシリコンバレーに行って勉強をし、本を出版してからはソフトバンクやGoogleなどからもひっきりなしに講演依頼の声がかかるようになりました。バックボーンは関係なく未来に目を向けているかが大切であり、彼はその体現者だと思います。

アルヴァスデザインは現在、未来志向の研修を企画しています。内容は参加者に合わせて変えるつもりですが、まずは人事担当者向けに次のような研修を行う予定です。はじめに、2045年までに新たに起こるとされている28個のビジネスを簡単に紹介し、詳細を参加者自らで調べてもらいます。次に、それぞれのビジネスが書かれたカードを裏返して二枚引き、組み合わせると自分の今の仕事をどう変えられるか、自分たちの事業の未来像を自由に言葉にしてもらいます。研修の最終目的は、会社の将来の人材教育の形を考えてもらうことです。教育担当者に想像教育の大切さを感じ取ってもらいたいと思っています。

最後に。2冊の本はともに「未来を描く」が共通したテーマですが、私が未来志向の営業にシフトしたきっかけの一つは、戦略系コンサルティング会社出身者が中心の集まりの中で営業は一兵卒だとの言葉を耳にし悔しい思いをしたことでした。その矢先に運輸会社の役員への提案機会に恵まれ、先方のビジョンや理念を勉強し、それを自分なりの言葉に置き換えて、「実現のために営業を変えましょう」とご提案しました。後日、役員の方から連絡がありました。「提案書の言葉を会社のビジョンとして役員会や株主総会でそのまま使っていいか」。お客様の次の姿を手伝えたことにとてもやりがいを感じました。これは一兵卒の仕事ではありません。私は営業とは業を営むことであり、ビジネスそのものと捉えています。
未来志向で営業できる人が増えれば、世の中も、営業の仕事も楽しくなります。現状は逆の状態にあることも多く、メンタルを損なう人もいます。ある調査では、残念なことに、営業は親が子どもになってほしくない職業の第二位だそうです。未来志向を教育を通して営業パーソンに広げ、営業のあり方を変えたいと思っています。

Writing : M. Nakane