Vol.9 初回接客② アンケートヒアリング前編

前回、案内前接客の自己紹介やアイスブレイクについて解説しました。

いよいよ、アンケートヒアリングに移ります。
アンケートヒアリングで聞いた内容は、お客様に提案するための材料になるだけでなく、その過程自体が信頼形成をするために重要な要素です。聞く姿勢により、感動体験を創出することもできるのです。

今回はアンケートヒアリングの人グリップと資金グリップをお伝えします。

講師紹介

田元健嗣の写真

株式会社イー・スマイル ENホーム

執行役員田元健嗣

28歳で不動産業界に入り、大手不動産会社などで10年間、不動産仲介と分譲住宅営業に従事。その後、愛知県に地域密着で事業展開している注文、建売住宅を中心とした住宅事業会社に入社。個人では1年目で20棟を販売する結果を残し、2年目からは部下育成のマネージャーを務める。直近の育成対象の新卒2名は1年目で8棟、7棟を販売。その前年の新卒は大手住宅コンサルティング会社主催の若手の営業スキル評価で全国から集まった50名のうち1位をとるなど、育成メンバーが常に高い結果を残している。2024年9月より現職

佐々木文平の写真

Co-Growth株式会社

代表取締役佐々木文平

東京大学を卒業後、コンサルティング会社のマッキンゼーに入社。企業の優績者が実践していることを明らかにし、皆が実践できる形にまとめあげる人材育成プロジェクトなどに従事。その後独立して、人材育成・組織開発のコンサルタントとして活動。デジタルな仕組みを作ることによる育成の効果効率を上げる可能性に着目し、「リフレクトル」を開発。以来、多くの住宅不動産事業者の、リフレクトルを活用した育成の仕組みづくりに関わる。

案内前接客の肝、ヒアリング

アンケートヒアリングとは、お客様に書いて頂いたアンケートを参照しながら、よりお客様を理解するため、営業パーソンがリードしながらお客様のお話を聞いていくプロセスです。

まずは、アンケートヒアリングの目的について田元さんに聞いたところ、「営業がお客様のニーズを理解するのはもちろんのこと、お客様自身がお客様のニーズを理解することにある」と返ってきました。

田元

アンケートヒアリングの目的

アンケートヒアリングは、営業が提案するための材料を得る時間であると同時に、お客様自身が、自らのニーズを認識するための時間です。

アンケートで記入していただいた内容についても、かならず「口頭で」語っていただくようにしています。なぜなら口に出すことで、お客様の中で納得感が高まるからです。「言霊」ともいわれますが、人は口に出し、耳で聞くことで、その言葉を強く認識します。アンケートヒアリングでは、お客様自身が語ることで、家づくりに対するイメージをより鮮明に持って頂くのです。

営業として大切なのは、聞く姿勢です。聞く側が適当な態度であれば、お客様も語る気持ちになりません。心は開けないでしょう。

アンケートヒアリングの流れ

アンケートヒアリングには効果的な流れがあります。4つの内容を流れに沿って聞いていくことを、以下の図に表してみました。

ここでは、「グリップ」という呼び方を使います。
「グリップ」とはつまり、心を掴むこと。
まずは人に関するヒアリングをすることで、お客様の心を掴みます。その後、資金、土地、建物と、住宅が具体化できるような質問へと移行していきます。

アンケートヒアリングを通して大事にすべきこと

全体を通じて、営業が大事にすべきポイントは以下の3つです。

✓ 信頼関係(ラポール)を築く
✓ 顧客からの質問への答えを出す
✓ 顧客の潜在ニーズを理解して、宿題を出す

まず、信頼関係を築くことについて。vol.4でも、コト売りにおいて、ラポールの形成が非常に大切だとお話ししました。FOR YOU、WITH YOUを超えて、IN YOU、つまりお客様と一体化し、自分事のように考えましょう。

次に、顧客からの質問への答えを出すことについて。アンケートヒアリングでは、顧客から質問されることもよくあります。その質問に、的確に答えましょう。

というのも、お客様の質問は、提案の場だからです。質問の意図をくみ取り、お客様の潜在ニーズを見抜き、適切に提案することによって、お客様に感動体験を提供できます。

気をつけるべきは、「売り込み」にならないようにすること。特に初回で、お客様が「売り込まれた」と感じると、心を開けなくなります。営業としての成果を追い求めるのではなく、お客様とIN YOUの状態になり、親身に答えることが、結果的に成果につながります。

最後に、顧客の潜在ニーズを理解して、宿題を出すこと。一般的に初回の次は、銀行の事前審査が大きな目的となります。とはいえお客様からすると、「事前審査のために店に行く」ことが面倒に感じます。宿題という形で、「ご主人、奥様、お子様それぞれが家に対してなにをしたいか3つずつあげてください」といった宿題を出すことで、もう一つ大きな目的をつくることができます。

ここで大事にしているのは、家族の答えを出すよりは、一人一人の答えを出してもらうこと。家族としてまとまった考えを出すためにはまず、一人一人が考えるべき。そのきっかけをつくるようにしています。

案内前接客の肝、ヒアリング

それでは、それぞれのグリップの解説をしていただきましょう。今回は、人グリップと資金グリップについてです。

田元

アンケートヒアリング①人グリップ

人グリップのために、このような質問を用意します。

✓ 家族の夢
✓ 子どもの将来
✓ 趣味・嗜好
✓ 住宅を購入する動機

住宅を選ぶ上では、意味の無い質問に思えるかもしれません。しかし住宅は、人が生きていく上で欠かせない、衣食住のひとつ。ある意味で、人生そのものともいえます。人生の大半を過ごす家、そしてそれを使うのが家族です。家族の価値観や夢になにかしら通じるものがなければ、高額の買い物の必要性を感じられないでしょう。

また、信頼関係を築く上でも大事な役割を持ちます。「この営業さんいいな」とお客様に思ってもらえるには、お客様が承認されたいポイントをしっかり承認することが大切です。的外れなポイントを承認しても、お客様の心は動きません。「夢」といった抽象的な、しかし大事な価値観をを語り、承認されると、一気に心の距離が狭まります。

家族の夢

たとえば、将来NBAを見に行きたいというお客様。すごくバスケが大好きで、元々は実業団のバスケットボール選手だった方でした。その方は、家でもバスケがしたいのではないかと考え、バスケができる家を提案。土地が広く、近所の家が遠く、ドリブルの音が響かない家を提案しました。すると、すんなり受け入れてくださったのです。このように、家族の夢から潜在ニーズを認識できることがよくあります。

子どもの将来

子どもの将来を考えて、家を購入する方は非常に多いです。「子どもにこうなってほしい」という明確な目標はないかもしれません。しかし、「優しい子に育ってほしい」などのふわっとした将来像に、お客様のワクワクが詰まっていることがあります。

そもそも住宅に対する夢自体がふわふわしたもの。子どもの将来についても、ふわっとしているけれども、聞いてほしいと考えているお客様は多くいます。

提案においても、「やさしいお子さんに育つためには、お子さんも家事のお手伝いをしやすいような家で」などの説明ができると、お客様の納得感も高まります。

趣味・嗜好

お客様の価値観を知る上で非常に大切な質問です。また、営業との共通点も見つけやすい質問。ラポール形成につながりやすいです。

住宅を購入する動機

こちらは必ず、家族の夢を聞いた後に聞きましょう。お客様自身も、家族の夢とつながっていることを認識すると、家への思いが強くなるからです。家を購入したい動機が明確でない場合は、住宅で何を大切にしているかを聞いたり、趣味と絡ませて聞いてみるのもおすすめです。

アンケートヒアリング②資金グリップ

資金グリップでは、次のような質問をします。

✓ 希望エリア
✓ 現在の借り入れ状況(車、カードなど)
✓ 現在の住まいの家賃
✓ 自己資金
✓ 住宅ローン

いよいよ、住宅の具体的なイメージを固めるヒアリングに移ります。まず、資金について聞く理由は、返済額にあわせて住宅を考えるべきだから。土地や建物の話からすると、お客様の夢が先行して、非現実的な予算になりがち。月々の返済が払えないような予算で考えるのは時間の無駄です。現実のイメージを膨らませるためにも、まず資金についてお伝えします。

希望エリア

公示地価や路線価格を見せながら、お話しします。ほぼ同じような地域でも、駅が近いと価格が高いこともあります。どの地域が高いのか、把握していただくことが大切です。

現在の住まいの家賃

住宅ローンの返済目安になります。詳しい資金計画については後でお聞きしますが、営業としてなんとなくのイメージを持てるので、押さえておきましょう。

現在の借り入れ状況/自己資金

自己資金については、親の援助があるかどうかも大事な指標になります。予算が大きく変わってくるので、しっかり押さえておきます。

住宅ローン

お客様によってはすでに調べている方や、競合で説明を聞いた方もいらっしゃるので、その人の知識レベルに合わせてお話しすることが必要です。
現状の変動金利やフラット35の話など、営業ならではの知識をお伝えすることで、信頼関係を構築できます。

まとめ

今回は案内前接客の中でもアンケートヒアリングに焦点を当て、その中でも最初にヒアリングすべき2つのグリップについてお伝えしました。アンケートヒアリングはお客様自身に声にだしていただき、再認識いただくことが目的です。また、ヒアリングには順番があり、お客様との信頼関係を徐々に構築していくために、少しずつ聞き出していきます。これはヒアリングに限らずですが、何より重要なのは聞く姿勢、お客様に「売り込み」を感じさせることなく、我々がお客様の人生に寄り添う姿勢が重要です。

連載にあたって

住宅不動産事業者のための新人営業育成『虎の巻』を編纂するCo-Growthは、営業商談を動画として記録し、成約率向上のためのフィードバックや新人の早期戦略化などに活用できる営業DXツール「Reflectle(リフレクトル)」を提供しています。

これまで、数多くの育成担当の方とお話しし、育成のパートナーを務めてきました。どうやって営業育成をしていけばいいのかお悩みの声を聞くことが多い一方で、素晴らしいノウハウを持っている方もいます。そのノウハウを一社だけにとどめておくのは、もったいない。どのような営業の考え方を持ち、どのように若手と向き合い、伝えているのか、インタビューしてまとめたいと考えました。

その業界の営業育成のプロと、さまざまな業界の営業育成に精通したCo-Growthのタッグでお届けすることで、育成担当者のスキルに左右されない、本質的かつ再現性のある内容となっています。

一方で、自社特有の戦略や方針を盛り込んだ育成については、個別の戦略策定が必要です。Co-Growthでは、各企業の育成の状況を丁寧にヒアリングし、これまで培ってきたノウハウをもとに、カリキュラム体系化のお手伝いをしています。田元さんをはじめ、営業育成のプロとの協業をアシストすることも可能です。ぜひお気軽にご相談ください。