Vol.8初回接客① 概論とラポール形成

シナリオ準備を万全にできたら、いよいよお客様への接客です。

お客様と直接対面でお話しするはじめての機会。ここでラポールを形成※できるかが、感動体験を提供する上で非常に重要です。

案内前接客(初回接客)については、4回にわたってお伝えしてきます。
今回は、案内前接客(初回接客)の概論と、ラポール形成に大切なアイスブレイクから自己紹介までをお伝えします。

※ラポールとは信頼関係のことで、ラポール形成とはお客様と営業が良い関係性を構築することを意味します。営業においてしばしば用いられる言葉です。

講師紹介

田元健嗣の写真

株式会社イー・スマイル ENホーム

執行役員田元健嗣

28歳で不動産業界に入り、大手不動産会社などで10年間、不動産仲介と分譲住宅営業に従事。その後、愛知県に地域密着で事業展開している注文、建売住宅を中心とした住宅事業会社に入社。個人では1年目で20棟を販売する結果を残し、2年目からは部下育成のマネージャーを務める。直近の育成対象の新卒2名は1年目で8棟、7棟を販売。その前年の新卒は大手住宅コンサルティング会社主催の若手の営業スキル評価で全国から集まった50名のうち1位をとるなど、育成メンバーが常に高い結果を残している。2024年9月より現職

佐々木文平の写真

Co-Growth株式会社

代表取締役佐々木文平

東京大学を卒業後、コンサルティング会社のマッキンゼーに入社。企業の優績者が実践していることを明らかにし、皆が実践できる形にまとめあげる人材育成プロジェクトなどに従事。その後独立して、人材育成・組織開発のコンサルタントとして活動。デジタルな仕組みを作ることによる育成の効果効率を上げる可能性に着目し、「リフレクトル」を開発。以来、多くの住宅不動産事業者の、リフレクトルを活用した育成の仕組みづくりに関わる。

成約するか否かの最大の分かれ目、初回接客

住宅不動産事業の経営者、営業部長と営業育成の話をする場合、必ずと言ってよいほど鍛える対象として挙がるのが、初回接客力 (初回商談力)です。それほど、初回接客の品質が、お客様に自社を選んでいただけるかに影響します。また営業個人による力の差、バラつきが大きく、一人ひとりがしっかりとしたスキルを身につける必要があります。

不動産売買仲介の営業や、分譲住宅の営業では、物件案内前に行う初回接客が成約率の大きな分岐点といえるでしょう。

虎の巻をまとめるにあたり、まずは田元さんに、案内前に接客する目的を聞いてみました。

※ 不動産の売買仲介営業や分譲住宅営業では、物件案内の前にこれから伝えていく初回接客をしっかりとできるとベストであるものの、注文住宅の展示場営業などでは、展示場を見てもらったうえで、着座後にしっかり初回接客をすることが一般的です。どちらのケースでも、大切なポイントは共通しています。この記事では、売買仲介営業、分譲住宅営業を想定した「初回接客=案内前接客」として書いていきますが、その内容は注文住宅営業でも参考になるでしょう。

田元

案内前接客の目的

案内前接客は、物件を見学するお客様のモチベーションを高めることが目的です。お客様の物件購入に関する興味関心をより強くする役割を持ちます。

興味関心は、その人が本当に欲しいという「イメージ」がついたときに高まります。しかし初回の時点では、お客様自身も理想の住宅に対する具体的なイメージがついていません。案内する前にヒアリングをして、お客様のニーズを整理することで、お客様も欲しいものが明確になります。かつ、物件を案内する際にお客様のニーズと物件が一致していることを伝えられると、物件への納得感も深まります。

もし目の前の物件がお客様のニーズに当てはまらなかったとしても、しっかりとヒアリングをすることで、「この人に相談すればいい住宅が見つかる」という信頼をつくることができます。逆に、案内前接客で信頼獲得ができないと、成約率は物件次第となり、誰が営業でも同じ、最低限の成約率となってしまいます。

成約率の高い優秀な営業とそうでない営業との差は、物件頼みの成約率からどれだけ離れられるか、すなわち「この人にお願いしたい」と思ってもらえるかどうかです。営業は住宅不動産のプロであり、お客様との間には情報格差があります。それを活かしたお客様に認められるような提案ができることがアピールできると、長期的な関係性構築につながります。

案内前接客の概要

案内前接客の各論に入る前に、接客の様子がイメージしやすいよう、田元さんに伺った持ち物リストと全体を通してのポイントをみてみましょう。

田元

案内前接客持ち物リスト

住宅不動産事業者によって細かい持ち物は異なるかと思いますが、私の場合は以下のようなものを必ず持参しています。

✓ 議事録記録用紙
✓ 金融電卓
✓ ipad
✓ 営業ファイル
✓ 分譲地情報(問い合わせ物件)
✓ 自己紹介シート
✓ 銀行金利表
✓ Jコンセプトブック
✓ ソラトモサービス説明資料
✓ マモリー説明資料
✓ 建物施工事例集
✓ MIOT説明資料
✓ オンレイ説明資料

案内前接客の全体を通してのポイント

具体的な流れを説明する前に、まずは全体を通して大切となるポイントを紹介します。

①議事録を記録する
②専門用語を使わずに説明する
③自己開示をし、お客様との共通点を見つける
④物件がないのは、それだけ市場で人気がある物件だと証明していることをご理解いただく

それぞれ説明します。

①議事録を記録する

お客様との折衝内容の共有および確認のために、必ず議事録を記録します。具体的には、次のような項目を必ず記載しています。

✓ 土地・建物・資金計画
✓ 次回アポの内容(日時・次回やること・宿題)

お客様と話すことばかりに集中して、内容を忘れてしまうとお客様の不信感につながります。忘れないように、必ず議事録として残しましょう。

②専門用語を使わずに説明する

先ほど、「プロ」として信頼していただくことが必要だと述べました。プロならば専門用語を使った方がいいのでは、と思う方もいらっしゃるかもしれません。実は、私が過去に在籍していたお客様アンケートによると、専門用語を多用する営業はあまり好まれないことがわかりました。お客様は置いてけぼりな気持ちになってしまうのです。お客様に分かりやすく説明できてこそのプロ。専門用語をかみ砕いて説明することで、信頼を獲得しましょう。

③自己開示をし、お客様との共通点を見つける

この後、自己紹介について説明しますが、適度に営業自身が自己開示をすることが大切です。緊張をほぐす効果があるのはもちろん、自己開示をして同じ価値観をもっていると感じていただけると、より話を聞いてもらいやすくなります。かつ、提案への納得感も高まります。たとえば「小さな子どもを育てている」、「○○市に住んでいる」など、ちょっとした共通点でかまいません。過度に自分の話をしすぎるとお客様も苦痛に感じるため、適度なレベルが大切ですが、うまく話に織り交ぜることで信頼獲得につながります。

④物件がないのは、それだけ市場で人気がある物件だと証明していることをご理解いただく

分譲営業の場合、営業として手札で出せる物件が少ない場合があります。また不動産売買仲介の営業の場合でも、お客様が求めている条件に当てはまる物件があまり市場に出ていないこともあるでしょう。その場合、お客様の理想の物件をそのまま紹介するのは難しいかもしれません。

その際、「物件が少ないのは、それだけ人気で、市場に出ると誰かがすぐに購入しているからである」とお客様に理解していただきましょう。お客様が決断を先延ばしにすることを回避できたり、またなかなか実現できない理想そのものでなくても自分たちとして満足できる物件を一緒に見つけたりすることにつながります。

逆にこの仕切りができないと、「この会社は良い物件を持っていない、この営業は頼りにならない」と思われてしまいます。他社においても、もともとお客様が思い描いているような理想の物件が少ないことは大概同じです。この仕切りができるかどうかで、お客様に満足いただける物件探しをお手伝いできるかが変わってきます。

案内前接客の流れ(アイスブレイク・自己紹介)

それでは続いて、案内前接客の具体的なステップを見ていきましょう。

田元

アイスブレイク

まず前提として、案内前接客全体を通しての肝はヒアリングであり、どれだけお客様を理解できたか、お客様としても十分に話して自分たちを理解して貰ったと感じられるか、が大切です。そのためにも、まずはどんどんお客様が話してくださる状況を作らねばなりません。この人なら話しても安心という状況をつくる必要があります。

そのためには、いきなり本題に入るとお客様が構えてしまい、心を閉ざしてしまいがちです。リラックスした状態で話を始められるよう、ささやかな話からはじめましょう。

たとえば以下のような話題です。
・気象の話をする
・お子様の話をする
・社会情勢(ニュース)についての話をする
・趣味の話をする

自己紹介

「全体を通してのポイント」で、自己開示が大事だと伝えましたが、その第一歩が自己紹介です。しかしだらだらと話していても、お客様は飽きてしまいます。伝えたいことを3つのポイントにするなどして、明確にしましょう。目から入るよう、一枚のシートにまとめるのもおすすめです。文字を多くせず、画像やイラストを使い、視覚に訴えかけるものにしましょう。また、実績などの内容は数字を用いるなど、具体性のある自己紹介にしましょう。

自己紹介は、アイスブレイクの延長線上にあります。「私の趣味はバスケなのですが、なにかスポーツはされますか?」など、話題を振り、語ってもらいましょう。なお、私は必ず、お客様の話題やお客様の家づくりで話を終わらせるように心がけています。主役はお客様であり、営業の自己紹介は自分を知ってもらうことが目的ではなく、お客様の家づくりのお役に立てる存在、パートナーとして認識してもらうことが目的だからです。

まとめ

まずは、案内前接客の目的と、アイスブレイク/自己紹介について記しました。
次回は案内前接客の要であるヒアリングを解説していただきます。

連載にあたって

住宅不動産事業者のための新人営業育成『虎の巻』を編纂するCo-Growthは、営業商談を動画として記録し、成約率向上のためのフィードバックや新人の早期戦略化などに活用できる営業DXツール「Reflectle(リフレクトル)」を提供しています。

これまで、数多くの育成担当の方とお話しし、育成のパートナーを務めてきました。どうやって営業育成をしていけばいいのかお悩みの声を聞くことが多い一方で、素晴らしいノウハウを持っている方もいます。そのノウハウを一社だけにとどめておくのは、もったいない。どのような営業の考え方を持ち、どのように若手と向き合い、伝えているのか、インタビューしてまとめたいと考えました。

その業界の営業育成のプロと、さまざまな業界の営業育成に精通したCo-Growthのタッグでお届けすることで、育成担当者のスキルに左右されない、本質的かつ再現性のある内容となっています。

一方で、自社特有の戦略や方針を盛り込んだ育成については、個別の戦略策定が必要です。Co-Growthでは、各企業の育成の状況を丁寧にヒアリングし、これまで培ってきたノウハウをもとに、カリキュラム体系化のお手伝いをしています。田元さんをはじめ、営業育成のプロとの協業をアシストすることも可能です。ぜひお気軽にご相談ください。