Vol.5住宅不動産営業のプロセス

第5回からは、住宅不動産の営業プロセスに即した内容を解説していきます。

1つ1つの営業プロセスの進め方を知る前に、まずは、全体の流れを押さえることが大切なので、お客様のファーストアクションから実際に契約して引き渡すまでのフローを俯瞰してみましょう。

講師紹介

田元健嗣の写真

株式会社イー・スマイル ENホーム

執行役員田元健嗣

28歳で不動産業界に入り、大手不動産会社などで10年間、不動産仲介と分譲住宅営業に従事。その後、愛知県に地域密着で事業展開している注文、建売住宅を中心とした住宅事業会社に入社。個人では1年目で20棟を販売する結果を残し、2年目からは部下育成のマネージャーを務める。直近の育成対象の新卒2名は1年目で8棟、7棟を販売。その前年の新卒は大手住宅コンサルティング会社主催の若手の営業スキル評価で全国から集まった50名のうち1位をとるなど、育成メンバーが常に高い結果を残している。2024年9月より現職

佐々木文平の写真

Co-Growth株式会社

代表取締役佐々木文平

東京大学を卒業後、コンサルティング会社のマッキンゼーに入社。企業の優績者が実践していることを明らかにし、皆が実践できる形にまとめあげる人材育成プロジェクトなどに従事。その後独立して、人材育成・組織開発のコンサルタントとして活動。デジタルな仕組みを作ることによる育成の効果効率を上げる可能性に着目し、「リフレクトル」を開発。以来、多くの住宅不動産事業者の、リフレクトルを活用した育成の仕組みづくりに関わる。

住宅不動産営業の全体像

「実際の住宅不動産営業の手法を伝えるにあたり、まず何から伝えますか?」と佐々木から田元さんに質問したところ、「まずは全体の流れを簡単に掴んでもらいます」と返ってきました。

田元さん曰く「特に、学生から新社会人になったばかりの新人は、営業=お客様との会話と捉えている方が多くいます。実際は、反響電話をしたり、契約手続きをしたりなど、さまざまな業務が発生することまで認識しきれていません。まずは全体像を伝えることで、その後の各論にも入りやすくなる効果があります」とのこと。

注文住宅、分譲住宅、不動産売買仲介で、それぞれで流れが異なる部分はありますが、住宅営業にも不動産営業にも通じやすいということで、分譲住宅営業に軸足を置いて、全体像を見ていきたいと思います。

物件購入の流れ

田元

物件購入の流れは、会社によって細かい違いがあったり、お客様によって面談の頻度に差があるものの、大体の流れは同じです。

ひとつずつ、簡単に解説します。

資料請求

お客様は、SUUMOや住宅各社のHP、チラシなどで情報を集め、興味を持った先に資料請求の連絡をします。

反響電話

興味を持ってくださったお客様の関心を育てるため、営業から電話をします。来店・来場を働きかける大事な営業です。ここで、来場時の接客をよりよいものにするための情報収集も行います。

シナリオ準備

初回の接客をする前に、反響電話で把握した情報をもとに、ニーズを推察し、接客のシナリオを用意します。具体的にどのような質問をするか、どのような物件を提案するかを想定し、準備します。適宜、社内ですりあわせを行います。

来店/案内前接客(初回接客)

物件をご案内する前に、ヒアリング及び提案を行います。お客様自身がすでに気になっている物件がある場合も、ほかの物件も紹介します。比較対象をつくることで、お客様の検討も深まるからです。また、資金計画についてもお聞きします。このプロセスで、「家探しのプロが相談に乗ってくれている」という信頼を獲得できると、成約率が飛躍的に高まる、最も実力が試される局面です。

物件案内

現地にて、物件の案内を行います。物件をアピールするのはもちろんのこと、実際の物件の立地や機能を見ながら、潜在ニーズを引き出すことが重要です。

次回アポ獲得

初回では、お客様自身も予算が決まりきっていなかったり、ご夫婦で意見が異なっていたりなど、詰め切れていないことがほとんど。次回のアポイントを取り、それまでの宿題を決めることで、購入への温度感を高めることができます。営業側も、次回アポまでの宿題を決め、それを共有します。

購入申し込み/買い付け

何度か接客を繰り返して、お客様が購入したい物件が決まったら、他者が購入できないようにするために購入申込書を書いてもらいます。これにより、ローンの事前審査に進むことができます。基本的には、これ以降のキャンセルは想定していません。

契約手続き

ローンの審査が通ったら、いよいよ契約です。「重要事項説明書」という、必ず購入者に説明しなければならない書面があり、宅地建物取引士の有資格者が説明します。契約書への署名と説明を同じタイミングですることがほとんどです。

ローン申し込み

契約が終わった後に、ローンの本申し込みを行います。お客様と銀行とのやりとりを一部代行し、滞りなく段取りを進めます。

金消契約

ローンが認定され、融資の承認が下りたら、融資を実行するための手続きを行います。これによりお客様は、金融機関と正式なローン契約(金銭消費貸借契約)を結ぶことになります。

残金決済

住宅不動産事業者にとっては、売上が入るタイミング。金融機関からお金が支払われます。

引き渡し

売主と買主が同席して物件の引き渡しを行い、いよいよお客様の新生活がスタートします。引き渡し時にもう一度建物の状態を確認。売主から、コンロや食器洗浄機など備えつき設備の使い方を説明していただきます。

まとめ

田元さんから住宅不動産営業の基本の流れを教えていただきました。「物件案内」をしている様子が住宅不動産営業の仕事としてよくイメージに取り上げられますが、実際は多くの工程があり、それらがとても大切です。住宅関係だけでなく、ローン契約などお金に関する専門知識も必要な仕事だとおわかりいただけたと思います。

田元さんに、「この中で田元さんが特に大切にしている工程を敢えて挙げると、どこですか」とお伺いすると、「シナリオ準備」と答えてくれました。

住宅不動産営業によっては、この工程を設けずに営業している人もいるでしょう。しかし事前に時間をとって準備をすることで、お客様に合った情報を提供でき、成約率も高まるとのこと。たしかに自分がお客様の立場になったとき、住宅不動産営業が自分のために準備してくれると、非常に嬉しくなりますし、信頼が置けます。「この人ならお任せできる」と思いますし、友人に紹介したくなります。一人一人のお客様に真剣に向き合うことが、長期的な成果創出につながるのです。

この連載では、シナリオ準備の方法についてもしっかりお伝えしていきます。虎の巻をみて各段階でどのような話をするか基本を理解した上で、シナリオ準備をし、よりお客様に合った接客につなげましょう。

なお、住宅不動産営業の仕事は「契約」を取ったら終わりではなく、その後も長く続きます。そのお客様の契約に繋げるためだけであれば、購入申し込みまでを頑張ればいいかもしれません。しかし、その後の工程でも営業として感動体験を提供することで、紹介を得られることにもつながります。この虎の巻は一旦契約までとしますが、それ以降も感動体験の提供が大切なことを頭の片隅に置いて頂けると嬉しいです。

次回は、反響営業について解説していきます。

連載にあたって

住宅不動産事業者のための新人営業育成『虎の巻』を編纂するCo-Growthは、営業商談を動画として記録し、成約率向上のためのフィードバックや新人の早期戦略化などに活用できる営業DXツール「Reflectle(リフレクトル)」を提供しています。

これまで、数多くの育成担当の方とお話しし、育成のパートナーを務めてきました。どうやって営業育成をしていけばいいのかお悩みの声を聞くことが多い一方で、素晴らしいノウハウを持っている方もいます。そのノウハウを一社だけにとどめておくのは、もったいない。どのような営業の考え方を持ち、どのように若手と向き合い、伝えているのか、インタビューしてまとめたいと考えました。

その業界の営業育成のプロと、さまざまな業界の営業育成に精通したCo-Growthのタッグでお届けすることで、育成担当者のスキルに左右されない、本質的かつ再現性のある内容となっています。

一方で、自社特有の戦略や方針を盛り込んだ育成については、個別の戦略策定が必要です。Co-Growthでは、各企業の育成の状況を丁寧にヒアリングし、これまで培ってきたノウハウをもとに、カリキュラム体系化のお手伝いをしています。田元さんをはじめ、営業育成のプロとの協業をアシストすることも可能です。ぜひお気軽にご相談ください。