第2回と第3回にかけて、住宅不動産営業として働く意義、心構えを学んできました。
その締めくくりとして第4回は、営業の本質である「モノ売り」と「コト売り」の違いを紹介します。モノが飽和している現代、「コト売り」こそが、お客様の本当に欲しいという想いを引き出すことができ、それは営業パーソンが介在することで生まれる価値でもあります。その力は、住宅不動産営業だけでなく、どのビジネスにも通じるスキルです。この記事から色々な学び・気づきが生まれればと願っています。
講師紹介
株式会社イー・スマイル ENホーム
執行役員田元健嗣
28歳で不動産業界に入り、大手不動産会社などで10年間、不動産仲介と分譲住宅営業に従事。その後、愛知県に地域密着で事業展開している注文、建売住宅を中心とした住宅事業会社に入社。個人では1年目で20棟を販売する結果を残し、2年目からは部下育成のマネージャーを務める。直近の育成対象の新卒2名は1年目で8棟、7棟を販売。その前年の新卒は大手住宅コンサルティング会社主催の若手の営業スキル評価で全国から集まった50名のうち1位をとるなど、育成メンバーが常に高い結果を残している。2024年9月より現職
東京大学を卒業後、コンサルティング会社のマッキンゼーに入社。企業の優績者が実践していることを明らかにし、皆が実践できる形にまとめあげる人材育成プロジェクトなどに従事。その後独立して、人材育成・組織開発のコンサルタントとして活動。デジタルな仕組みを作ることによる育成の効果効率を上げる可能性に着目し、「リフレクトル」を開発。以来、多くの住宅不動産事業者の、リフレクトルを活用した育成の仕組みづくりに関わる。
お客様は本当に「家」が欲しいのか
まず皆さんに質問です。
住宅展示場に来店されるお客様は、いったい何が欲しくて、足を運んでくださるのでしょうか?
答えは簡単。「家」です。
では次の質問です。
お客様は本当に、「家」が欲しいのでしょうか?
変な質問だと思うかもしれません。
疑いようもない事実に見えます。
しかし実は、お客様のニーズは別にあるかもしれません。
本当に顧客が欲しいのは?
自動車王と呼ばれたアメリカのヘンリー・フォードは、このような言葉を残しました。
「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」
実際に顧客が望んでいたのは、「速い馬」ではありません。「速い移動」でした。自動車は、顧客の「ウォンツ」とは異なる商品のはずが、今や世界中で利用される移動手段となったのです。
このように、お客様の考えるウォンツが、本当にお客様にとって正しいとは限りません。
なぜ家が欲しい?
家の場合も同じことがいえます。
こちらの図は、「家が欲しい」というウォンツに対して、ニーズを表したものです。お客様に対して、「なぜ家が欲しいのか」と聞いたところ、「隣人を気にせずにのびのびと暮らしたいから」と答えてくれたとします。そのとき、本当に「家」が欲しいのでしょうか。
実際は、賃貸アパートでも、防音設備が整っていれば十分かもしれません。逆に持ち家でも、隣の家との距離が近い家では逆効果かもしれません。必ずしも、お客様が持っているニーズ、そしてウォンツは、正しいとは限らないのです。
顧客が語るニーズは、「顕在ニーズ」と呼びます。それこそが本質に見えますが、実は本人すらも気づいていない「潜在ニーズ」がある場合があります。営業が潜在ニーズを深掘りすることで、顧客が本当に欲しい価値がわかり、競合との差別化が可能になります。
「モノ売り」から「コト売り」へ
顧客が本当に「家」が欲しいとは限らないのであれば、住宅営業はどうやって「家」を売るべきなのでしょうか。
必要なのは、本当のウォンツとニーズを見極め、「コト」を売ることです。
近年、モノを売る時代は終わったといわれています。
物質的に豊かになり、より質の良い商品をつくったり、値下げをしたりしても、モノが売れなくなってきました。
逆に売れてきているのが、「コト」。その商品やサービスから得られる感動や体験が、価値として消費されています。
ホテル業界で、グランピング施設などの体験が人気なのは、ご存じの通り。「宿泊」ではなく、「体験」を求めているのです。
住宅営業でも、「コト売り」が大切です。
たとえば、「アウトドアが好き」なお客様。広いテラスがあれば、「おうちで気軽にバーベキューができる」という「コト消費」に進化します。
たとえば、映画鑑賞が好きなお客様。大きなプロジェクターと音響があれば、「おうちで映画鑑賞を楽しめる」という「コト消費」に進化します。
このように、住宅は「モノ」ではありますが、お客様のウォンツを考えることで、「コト消費」へと進化できます。
たとえば、「会社から近い物件がいい」というニーズだけだと、賃貸やマンションも競合になりえます。しかし聞き取りの中で、「家族でバスケが楽しみたい」というニーズを拾えると、庭にバスケゴールを置ける「家」であることが、お客様にとって最善の選択になります。逆に競合は、庭が広いほかの住宅に変わるでしょう。お客様が、家を通じて、どんな「コト」をしたいのか、どんな体験をしたいのかを考え、それを提示するようにしましょう。
ラポールをつくる
「コト売り」をするために大事なのは、お客様のニーズやウォンツを正確に掴むこと。
お客様自身も気づいていない、誤解しているウォンツに気付き、ピンポイントでアピールすることで、お客様に響く営業が可能です。お客様自身も「理解してもらえた」感覚をもつことができ、信頼が芽生えていくでしょう。
では、どうやってお客様のニーズやウォンツを探っていけばいいのでしょうか。心理学の用語で信頼関係を意味する「ラポール」の3つのレベルから考えてみましょう。
ラポールの3つのレベル
FOR YOUの段階は、営業とお客様は他者。他者として、役に立ちたいというレベルです。
次のWITH YOUは、一歩進んで一緒にがんばっていきましょうというレベル。
よりお客様に寄り添っていますが、あくまで他者であることには変わりありません。
目指すべきは、IN YOUのレベル。相手と一体化し、自分ごとのように考えます。
お客様の立場に立つので、お客様が語らずとも、おのずとニーズ、ウォンツが見えてくるのです。IN YOUの状態で、シナリオセールスを考えることで、よりお客様に響く営業が可能です。
まとめ
住宅不動産営業の意義・やりがいは、お客様の人生に寄り沿いながら、お客様の人生を左右する提案をすることだと、これまでの章の中で述べられてきました。
ではどうすればより添えるのかということが、「モノ」と「コト」と整理することで、より鮮明に見えてきました。
そして「コト」を提案するためには、お客様とのラポールを深め、お客様の人生を自分ごとの様に考えられることが鍵になってきます。
田元氏の言う「IN YOU」のレベルまで到達するにはまず、お客様について理解するための情報を得ることが欠かせません。この後の章では、営業のヒアリングについて取り扱っています。
ラポールのレベルを高め、「コト売り」をするための重要な武器です。
連載にあたって
住宅不動産事業者のための新人営業育成『虎の巻』を編纂するCo-Growthは、営業商談を動画として記録し、成約率向上のためのフィードバックや新人の早期戦略化などに活用できる営業DXツール「Reflectle(リフレクトル)」を提供しています。
これまで、数多くの育成担当の方とお話しし、育成のパートナーを務めてきました。どうやって営業育成をしていけばいいのかお悩みの声を聞くことが多い一方で、素晴らしいノウハウを持っている方もいます。そのノウハウを一社だけにとどめておくのは、もったいない。どのような営業の考え方を持ち、どのように若手と向き合い、伝えているのか、インタビューしてまとめたいと考えました。
その業界の営業育成のプロと、さまざまな業界の営業育成に精通したCo-Growthのタッグでお届けすることで、育成担当者のスキルに左右されない、本質的かつ再現性のある内容となっています。
一方で、自社特有の戦略や方針を盛り込んだ育成については、個別の戦略策定が必要です。Co-Growthでは、各企業の育成の状況を丁寧にヒアリングし、これまで培ってきたノウハウをもとに、カリキュラム体系化のお手伝いをしています。田元さんをはじめ、営業育成のプロとの協業をアシストすることも可能です。ぜひお気軽にご相談ください。