虎の巻の全体像

新卒や未経験の若手の営業力を強化したいが、教えるべきことを体系立てられていない。

住宅不動産営業の概論については、属人性に左右されるOJT頼みではなく、座学で学ぶ機会を設けて、全員の共通言語を作りたい。
住宅不動産営業のあるべき姿には、企業によらない普遍性もあるはずだから、他社の知見、事例も取り入れたい。

そんな住宅不動産事業者のために、連載企画「住宅不動産事業者のための新人営業育成『虎の巻』」をスタートします。

この『虎の巻』は、住宅不動産営業のプロである株式会社イースマイル執行役員の田元健嗣さんに、数多くの企業の営業育成企画を支援しているCo-Growth株式会社がインタビューし、そのノウハウを体系的にまとめたもの。両社がタッグを組むことで、住宅不動産営業の基礎を体系立てて学べ、かつリアリティに溢れた内容となっています。全体で12回の構成で、概論から具体的なノウハウや手法にも踏み込みました。育成者が若手に伝えるべき内容、育成の仕方を自分の中で整理し、明確にする助けにもなりますし、このまま若手に読んでもらうのもおすすめです。

第1回は、『虎の巻』の全体像を説明します。

講師紹介

田元健嗣の写真

株式会社イー・スマイル ENホーム

執行役員田元健嗣

28歳で不動産業界に入り、大手不動産会社などで10年間、不動産仲介と分譲住宅営業に従事。その後、愛知県に地域密着で事業展開している注文、建売住宅を中心とした住宅事業会社に入社。個人では1年目で20棟を販売する結果を残し、2年目からは部下育成のマネージャーを務める。直近の育成対象の新卒2名は1年目で8棟、7棟を販売。その前年の新卒は大手住宅コンサルティング会社主催の若手の営業スキル評価で全国から集まった50名のうち1位をとるなど、育成メンバーが常に高い結果を残している。2024年9月より現職

佐々木文平の写真

Co-Growth株式会社

代表取締役佐々木文平

東京大学を卒業後、コンサルティング会社のマッキンゼーに入社。企業の優績者が実践していることを明らかにし、皆が実践できる形にまとめあげる人材育成プロジェクトなどに従事。その後独立して、人材育成・組織開発のコンサルタントとして活動。デジタルな仕組みを作ることによる育成の効果効率を上げる可能性に着目し、「リフレクトル」を開発。以来、多くの住宅不動産事業者の、リフレクトルを活用した育成の仕組みづくりに関わる。

虎の巻の先にある、営業として目指してほしい姿

本連載のインタビューを開始するにあたり、佐々木が田元氏に、「若手に対して、どのような姿を目指してほしいと伝えていますか?」と聞いたところ、「紹介で受注をとれる営業になってほしい、と伝えています」との答えが返ってきました。

田元

感動体験を創造し、紹介で受注を取れる営業とは

感動体験とは、顧客が人やモノと直接触れ合う機会を通じて、自らの潜在ニーズを認識して、心が動きそれに関わった人や事業者への「感謝(ありがとう)」の気持ちが生まれる体験を指します。昨今用いられる「顧客体験」をより突き詰めた形であり、私が最も大切と考える営業の在り方です。

住宅販売では、顧客が商品(住宅)を購入するまでの過程である接客や購入後のアフターサービスなどの顧客体験で、感動を体験していただくことができます。たとえば、来場時にお誕生日をお祝いするおもてなしをして和やかな雰囲気に包まれたなかで、検討中の住宅において顧客に合った生活を提案。そこから「ああ、リビングの広さを一定以上確保すれば、私の思い描いていた暮らしを実現できるんだなどの気づきが生まれ、その気づきを与えてくれた営業に感動し、感謝の気持ちが生じる。このプロセスが感動体験です。このような潜在ニーズが営業の存在により引き出されることで、感動体験が生まれます。

気づきが大切なのであれば、「わざわざお誕生日を祝う必要があるのか?」と思うかもしれません。しかし、人間関係が築けていない状態でヒアリングしたらどうなるでしょうか?ありきたりな答えしか返ってこず、心の奥底にある考えを呼び起こし、そのことに感謝されるような対話は生まれないでしょう。心を許してもらえる状態をまず作ることが感動体験を創造する土台になります。

感動体験の創造には、ある種、営業としての利害関係や効率性を度外視してでも、おもてなしや思いやりなど人としての誠実さを追求することも必要です。ときには成果につながらないこともありますし、労力もかかります。しかしそれが、人の感情に訴えかけることになり、他との差別化につながり、デジタルだけでは実現できない「営業」の存在価値となります。

その上で、ホテルなどの接客業はおもてなし自体が提供価値の中心なのに対して、私たち住宅不動産営業は住まいのプロとして、住まいに関する「潜在ニーズ」を引き出すことが感動体験の核になります。

顧客が、感動体験を得るとどうなるでしょうか。顧客はファンとなり、自らの感動体験を自慢したくなります。それはすなわち、紹介により新たな顧客を獲得できることにつながるのです。

感動体験を提供できるような力を身に付け、紹介が得られると、それがさらに力の源泉となって自信がつき、さらなる感動体験の提供につながります。紹介が紹介を生み、継続的な売上向上につながります。

紹介から生まれた商談は、成果につながりやすい

紹介を得られることは、商談の機会が増えるだけでなく、成約率が高まることにもつながります。

通常の商談では、まずお客様の信頼の獲得にエネルギーを注ぐ必要があります。それは成功する時もあれば、時に上手くいかないときもあります。しかし紹介で出会うお客様の場合、紹介者への信頼が営業への信頼となり、はじめから一定の信頼が得られています。そもそも、紹介は信頼によって成り立ちます。紹介者にとって、仮に自分が自信をもっておすすめできない住宅不動産会社を紹介し、相手が不快な思いをしたら、自分の評価にも関わります。紹介は、絶対的な信頼がなければ生まれません。そのため、通常の商談では、まず最初のハードルとなる信頼獲得が、既にクリアされている状態で商談が始まるのです。その後の意思決定にも加味されるため、自ずと成約率が高くなります。即ち確度の高いお客様に、使える時間が増えるため、全体の成績も高くなります。

くわえて、展示場来場や広告への反響など、会社頼みの営業機会獲得のみだと、自分で営業成績をコントロールできない部分も出てきます。しかし紹介の場合、自分の実力で営業機会をコントロールできるようになるのです。

会社にとっても、紹介営業ができる営業が増えると、安定的な売上向上につながります。これほど心強い戦力はないでしょう。

自らの力で役に立っているという感覚は、営業職として働くことの誇り、喜びを感じられます。ぜひそうした姿にたどり着いてほしいと思っています。

連載にあたって

住宅不動産事業者のための新人営業育成『虎の巻』を編纂するCo-Growthは、営業商談を動画として記録し、成約率向上のためのフィードバックや新人の早期戦略化などに活用できる営業DXツール「Reflectle(リフレクトル)」を提供しています。

これまで、数多くの育成担当の方とお話しし、育成のパートナーを務めてきました。どうやって営業育成をしていけばいいのかお悩みの声を聞くことが多い一方で、素晴らしいノウハウを持っている方もいます。そのノウハウを一社だけにとどめておくのは、もったいない。どのような営業の考え方を持ち、どのように若手と向き合い、伝えているのか、インタビューしてまとめたいと考えました。

その業界の営業育成のプロと、さまざまな業界の営業育成に精通したCo-Growthのタッグでお届けすることで、育成担当者のスキルに左右されない、本質的かつ再現性のある内容となっています。

一方で、自社特有の戦略や方針を盛り込んだ育成については、個別の戦略策定が必要です。Co-Growthでは、各企業の育成の状況を丁寧にヒアリングし、これまで培ってきたノウハウをもとに、カリキュラム体系化のお手伝いをしています。田元さんをはじめ、営業育成のプロとの協業をアシストすることも可能です。ぜひお気軽にご相談ください。