Vol.7シナリオ準備

前回は、「反響電話」についてお伝えしました。お客様とのファーストコンタクトにおいて、確実に聞くべき内容や注意すべきことを学んでいきました。

今回は、「シナリオ準備」について学んでいきます。

シナリオ準備は、あまり聞き慣れない方も多いかと思います。しかし、お客様に感動体験を提供するうえで、非常に重要であり、虎の巻の核ともいえるパートです。

紹介で仕事ができる住宅不動産営業を目指すために、しっかり学んでいきましょう。

講師紹介

田元健嗣の写真

株式会社イー・スマイル ENホーム

執行役員田元健嗣

28歳で不動産業界に入り、大手不動産会社などで10年間、不動産仲介と分譲住宅営業に従事。その後、愛知県に地域密着で事業展開している注文、建売住宅を中心とした住宅事業会社に入社。個人では1年目で20棟を販売する結果を残し、2年目からは部下育成のマネージャーを務める。直近の育成対象の新卒2名は1年目で8棟、7棟を販売。その前年の新卒は大手住宅コンサルティング会社主催の若手の営業スキル評価で全国から集まった50名のうち1位をとるなど、育成メンバーが常に高い結果を残している。2024年9月より現職

佐々木文平の写真

Co-Growth株式会社

代表取締役佐々木文平

東京大学を卒業後、コンサルティング会社のマッキンゼーに入社。企業の優績者が実践していることを明らかにし、皆が実践できる形にまとめあげる人材育成プロジェクトなどに従事。その後独立して、人材育成・組織開発のコンサルタントとして活動。デジタルな仕組みを作ることによる育成の効果効率を上げる可能性に着目し、「リフレクトル」を開発。以来、多くの住宅不動産事業者の、リフレクトルを活用した育成の仕組みづくりに関わる。

『虎の巻』の核は、シナリオ準備にあり?

vol.4で営業の流れをお伝えしました。『虎の巻』のほかにも、住宅不動産営業の流れを解説している書籍やサイトはありますが、お客様や関係各位との交渉の場面ではないため、省略されることがほとんど。
その流れの中に今回取り上げる『シナリオ準備』があるのは、ユニークです。

『虎の巻』がお伝えする営業プロセスの特徴は、『感動体験への真摯さ』にあります。田元さんいわく、「感動体験を届ける営業になるには、シナリオ準備が不可欠」とのこと。

それでは一体、『シナリオ準備』とはなんでしょうか。

田元

シナリオ準備が、感動につながる

シナリオ準備とは、実際にお客様を接客する前に、その都度、接客の内容を想定した準備を行うことです。

企業によっては、すでに接客をするための資料やシナリオができている場合もあるでしょう。しかしお客様ひとりひとり、要望も悩みも異なります。それぞれのお客様に合わせた準備をすることで、お客様に「感動体験」を届けることができるのです。

日々の業務に忙しく、なかなかこの時間を取る余裕がないと感じる方もいるかもしれません。しかし、1時間、事前に準備をするだけでも、お客様への接客の質が大きく変わります。慣れてくると、かかる時間はより短くなります。特に新人のうちは、お客様にあった接客をするためにシナリオ準備をしっかり行うことが大切です。

シナリオ準備でまずすべきこと

田元さんから、シナリオ準備が非常に重要であることをお聞きしました。では、具体的にどのようなことを行えばいいのでしょうか。

契約までは複数回来店するのが一般的なため、それぞれのタイミングで必要なシナリオは異なるとのこと。今回は、初回接客前のシナリオ準備を説明します。

田元

シナリオ準備で、まずはじめに決めるのが「ゴール」です。その商談で何をゴールにするべきかを考えます。


もちろん、最終目標は「契約」です。しかし初回接客で契約が決まることは稀です。お客様の来店ごとのゴールを順序立てて決めて、その都度の接客で達成していくことが大切です。

具体的には、初回の来店は「土地案内のアポを入れる」、2回目は「銀行の審査準備をしてもらう」などのゴールを設定しています。

では、どうやってゴールを決めれば良いのか。

前回、反響電話の聞くことリストとして次の項目を挙げました。

✓ 問い合わせの理由(気になる物件があるのか、会社が気になるのか、など)
✓ 名前
✓ 住所
✓ 家族構成
✓ 電話番号
✓ 家を考え始めてからどれくらい経つか

このうち、「問い合わせの理由」がゴールを決めるヒントとなります。

たとえば物件を指定して問い合わせしている場合は、物件への指向性が高いといえます。その場合、初回でも物件案内を求めていると読めます。ただ、初回に必ずしも意思決定に⁩関わるすべての方にご来場いただけるとは限りません。そこで初回のゴールは、「物件の購買意欲を高め、次回はご家族および意思決定に関わる他の方がいれば、その方も一緒にご来場いただく」と設定します。

一方で住宅相談の場合、実際の物件を見るほどの熱量がない場合があります。そのためゴールを「お客様の住宅に求めるポイントを明確にする」ことをゴールにします。

3つの軸でシナリオ準備

シナリオは、①お客様が住んでいる物件、②お客様が問い合わせた物件、③お客様の理想の物件の3つの軸で考えます。これら3つの情報を組み合わせることで、お客様のニーズが想定でき、感動体験の提供につなげることが可能です。

では、ヒアリング内容からどのように3つの軸に落とし込んでいくべきでしょうか。

現状から分析する

特に初回面談前は、得られる情報が問い合わせ内容や反響電話に限られています。少ない情報から、推測しなければなりません。一方で、「現状」についてはかなりの情報が揃っています。以下、現状から分かる分析です。

住所

たとえば賃貸に住んでいる場合。どんな間取りなのか、どれくらいの家賃なのか、築年数は何年か、オートロックはついているかなど、住宅への指向性を推測することができます。駐車場がある賃貸であれば、実際に足を運んで、置いてある車の種類をみることで、どんな人が住んでいるのかも推測できます。

また、その住所から生活の利便性への考え方も見えてきます。駅前、スーパー、学校の近さなどをどう考えているのかが見えてきます。お客様からすると、今住んでいる場所より良い立地であれば、必然的に土地への納得感が得られます。

実家暮らしの場合も、子どもの頃からどのような生活圏内で暮らしてきたか、どのくらいの資産がありそうかを予想できます。

家族構成

子どもが居るご家庭の場合、子育て環境は家選びに切っても切り離せません。近くに保育園や学校があるか、小児科が近くにあるかなども、家を考える基準となります。

一方で子どもが居ないご家庭の場合、老後の暮らしに関心がある場合が高い。バリアフリーデザインになっている、スーパーや病院が近いなどが響く傾向があります。

家を考えてどのくらい経つか

1か月以内の場合は、まだ競合に足を運んでいない可能性が高い。税金やローンの説明をより細かく詰める必要があります。

3か月以内の場合、すでに競合に出向き、お金の話については聞いている可能性が高い。そのため、物件の話をメインで進めます。

半年以内の場合は、大体一度土地や家を買おうとして失敗している方が多い。買おうと思っていたけれど、ほかの人に先を越されていたケースです。この場合、表に出ている物件だと、また先に買われてしまうかもと恐怖感を抱いている可能性があります。そのため、自社がもっている未公開物件を提示すると刺さる可能性があります。

一年以内の場合、「グルメ」状態になっている可能性が高い。物件へのこだわりは強いものの、予算との釣り合いが取れていない場合です。他社からは面倒くさがられて、良い対応をされていないことも多く見受けられます。あえて逆を張って、付き合いを密にして、現実をしっかり伝えてあげることで、信頼を獲得できる可能性があります。

一年以上の場合は、良い物件がないからではなく、「信頼できないから」の場合が多い。本人も「面倒くさいことを言っているから、相手にしてもらえない」と気づいていることもあります。この場合も、逆張りをします。密にコミュニケーションをとり続けます。一度信用してくれれば、こちらが裏切らない限り、話を聞いてくれます。

現状と問い合わせた物件から、理想をイメージする

たとえば、現在徒歩5分のところにスーパーがあり、問い合わせ物件が徒歩3分にスーパーがある場合。このお客様は、スーパーとの距離を重視していることが考えられます。

現状と問い合わせ物件との差異から理想が予測できることもあります。現在は2LDKの賃貸に住んでおり、4LDKの物件をお問い合わせいただいた場合。現在、広さで課題を感じており、子ども部屋がつくれることや収納の広さが響くと考えられます。

シナリオを組み立てる

このように、ヒアリングの内容からお客様の状態、求めていることが推測できます。

ただし、調べてただ推測するだけでは、「感動」にはつながりません。これらの内容をもとに、シナリオを組み立て、接客につなげることが必要です。

シナリオ組み立てのポイントは、お客様の「理想の物件」「住んでいる物件」「問い合わせた物件」の3つを組み合わせることです。

たとえば、「理想の物件」として利便性を重視していると考えられるお客様の場合。「今『住んでいる物件』はスーパーまで徒歩8分。『お問い合わせ物件』は5分なので、今より⁩一層利便性があがりますよ」と伝える。ただ「徒歩5分にスーパーがある」と伝えるよりも、いかにお客様のことを理解しているか、いかにお客様に合った提案しているかが分かり、効果的になります。

物件に広さを求めていると考えられるお客様の場合。
「リビングは今住んでいる物件の1.5倍程度の広さで、ゆったりと過ごすことができますね。子ども部屋をつくることもできます」と伝える。お客様に現状と理想を伝えることで、腹落ちしやすくなります。

指定の問い合わせ物件がなくても、現在の物件から想定することも可能です。「現在、駅から10分の物件に住んでいらっしゃいますよね。ちょうど今、駅チカの物件の募集を始めたところなんです」と伝える。お客様の購入意欲をぐっとあげることが可能です。

このように分析した情報を交えて物件の魅力を伝えることで、「この営業は自分たちを理解して提案してくれている」と感じていただくことが可能です。

まとめ

住宅不動産営業の流れにおいて、時間をとらずに接客に臨んでいる営業パーソンも多い「シナリオ準備」。田元さんがいかに力を入れて、感動体験をつくりだそうとしているかがよく分かる内容でした。

営業において、初回接客での信頼関係の構築は非常に大切です。そのためには、お客様をよく理解し、それに合わせた提案をすることが鍵となりますが、本当に質の高い営業を実現するには、本番の即興力に頼りきるのではなく、田元さんのように、予め想定を積み重ねておくことが効くのだと肌で感じられました。

次回は、案内前接客について解説します。

連載にあたって

住宅不動産事業者のための新人営業育成『虎の巻』を編纂するCo-Growthは、営業商談を動画として記録し、成約率向上のためのフィードバックや新人の早期戦略化などに活用できる営業DXツール「Reflectle(リフレクトル)」を提供しています。

これまで、数多くの育成担当の方とお話しし、育成のパートナーを務めてきました。どうやって営業育成をしていけばいいのかお悩みの声を聞くことが多い一方で、素晴らしいノウハウを持っている方もいます。そのノウハウを一社だけにとどめておくのは、もったいない。どのような営業の考え方を持ち、どのように若手と向き合い、伝えているのか、インタビューしてまとめたいと考えました。

その業界の営業育成のプロと、さまざまな業界の営業育成に精通したCo-Growthのタッグでお届けすることで、育成担当者のスキルに左右されない、本質的かつ再現性のある内容となっています。

一方で、自社特有の戦略や方針を盛り込んだ育成については、個別の戦略策定が必要です。Co-Growthでは、各企業の育成の状況を丁寧にヒアリングし、これまで培ってきたノウハウをもとに、カリキュラム体系化のお手伝いをしています。田元さんをはじめ、営業育成のプロとの協業をアシストすることも可能です。ぜひお気軽にご相談ください。