営業パーソンの糧になる本

本コーナーでは、営業パーソンとして確かなキャリアを積み上げられた方に伺った「自分の糧になった本」のインタビュー記事を掲載してゆきます。

川村和義さん(オールイズウェル)が本の推薦を通して語る、成功につながる姿勢と精神:『夢をかなえるゾウ』『起業家精神』

川村和義さん

株式会社オールイズウェル代表取締役社長。 1963年大阪生まれ。立命館大学経営学部卒業。1987年株式会社リクルート入社。求人広告営業としてトップセールスとなった後、営業リーダーとして自らのノウハウを共有する勉強会「川村塾」を開催し、川崎営業所を事業部No.1へと導く。 1994年プルデンシャル生命保険株式会社入社。ライフプランナーとして活躍した後、営業所長として2001年に年間営業成績(営業所部門)でトップを意味するPT(President's Trophy)を獲得する。2003年には営業マンゼロから支社を立ち上げ、他業界から優秀な営業マンを独自の手法でスカウトし続け、 2008年、2009年 支社部門でも2連覇。2011年本部長に就任した後も、教え子から数多くのPTを輩出し続けている。その後、執行役員常務として、プルデンシャル生命保険初のティーチングフェロー(学び・教育の専門職)となり、ゼロからオンライントレーニングを使った教育の仕組みを構築し、従来のトレーニングのあり方に変革をもたらす。 2015年株式会社オールイズウェルを設立。「夢と勇気と笑いと感動あふれる組織づくり」を支援するため、営業コンサルティング、リーダー研修、セミナーなどの活動を行う。熱くて、笑えて、ためになる講演が人気を集めている。

成功者は人が当たり前にできることを死ぬほど一生懸命やっている
1冊目は水野敬也さんの「夢をかなえるゾウ」です。象の形をした神様「ガネーシャ」が若いビジネスマンの前に突然現れ、成功につながる様々なアドバイスをする物語です。
29個あるガネーシャの教えは、「靴を磨く」「コンビニで余ったお釣りは募金する」「トイレ掃除をきちんとする」「お墓参りをする」など、ごくシンプルで誰にでもすぐにできる当たり前のことばかりです。しかし、当たり前のことをこれほどわかりやすく笑いを交えて伝えている本は他になく、読んだ瞬間に抜群に面白いと感じました。
成功者は当たり前のことを死ぬほど一生懸命やり続けています。そうすることで人と違うところへ抜け出せるのです。では、普通の人はその当たり前のことがなぜできないのか。原因は2つあると思っています。1つ目の原因は、「しょうもないプライド」を捨てられないことです。以前、吉本興業の小籔千豊さんに取材させていただいた際、「売れない芸人ほどしょうもないプライドやこだわりを捨てられへん」とおっしゃっていました。これは営業も同じで、売れている営業マンほど変化を恐れずにどんどん変わっていきます。2つ目の原因は、教えられたことを素直に実践せず、「もっと楽に稼げる方法があるはず」といつも考えていることです。例えば、「靴を磨きなさい」「トイレ掃除をしなさい」と言われても、「凡事徹底はどうでもいいので、もっと手取り早く成功する方法を教えてください」というタイプ。これでは絶対に成功できません。このタイプの方にお伝えしたいのは、「効率を上げる」と「楽をする」は違うということです。どんな些細なことでも、まずは自分でやってみる。そして、うまくいかなかったり、うまくいったり、自分自身で試行錯誤を繰り返した上で、少しずつ工夫を重ねながら効率化していく。最初から楽に稼げる方法などありません。本当に成功したいのであれば、これら二つの考えを捨て、とにかく「平生を磨く」のが大切です。

普段の何気ない生活の中に実力が出る
「平生を磨く」は私の好きな言葉です。平生とは日頃の振る舞いを表し、普段の何気ない生活の中にあなたの実力が出るということを意味しています。私は支社長を務めていた頃から「支社にいる自分を磨こう」と言い続けてきました。例えば、会社の中でいつも少しだけ遅刻してくる人がいたとします。その人が「私はお客さんの前では一度も遅刻したことはありません」と言っても信じられませんよね。社内でいつもだらしない格好をしている人が、「お客さんの前ではピシッとしています」と言ったらどうでしょう。これも信頼できませんね。つまり、外に出たら急にピカピカになるはずはなく、普段のオフィスで見えている様子があなたの実力です。だから、この平生をまずオフィス内で磨き、お客様に信頼され、喜ばれる営業マンになろうとメンバーに言い続けてきました。この考えとガネーシャの教えがよく似ていて、さらに伝わりやすいように角度を変えておもしろおかしく書かれているので、一部抜粋したコピーをメンバーに共有し腹に落としていました。

得た知識はアウトプットして初めて自分のものになる
講演でこの本を取り上げ、「読んだことがある人はいますか?」と尋ねると、多くの人が手を挙げます。しかし、「ガネーシャの一つ目の教えはなんだったでしょう?」と尋ねると、覚えている人はほとんどいません。なぜでしょう。本を読んで「良かった」「ためになった」と思っても、多くの人は実践しないからです。実践しなければ知識は自分のものになりません。
私は、講演の最初に、講演を聴くにあたってのポイントを必ず話しますが、その一つに「Learn to teach(教えるために学べ)」があります。多くの人は自分のために学ぼうとし、「なるほど、分かった」と思った瞬間に忘れてしまいます。もしくは、メモを取って安心して二度と見返しません。優秀な人は、「あ、この話明日あの社長に話してみよう」「この話は今度のミーティングで使えるな」「このネタは自分の持っているあの話とくっつけたらさらに面白くなるんじゃないか」などとアウトプットするイメージをしながら話を聴いています。
「得た知識は、自ら実践し、人に伝えて、初めて自分のものになる」ぜひ、それを習慣にして欲しいです。

起業家精神とは、起業をする経営者だけに求められるものではない
2冊目に紹介する本は、福島正伸さんの「起業家精神」です。私が営業所長になりたての頃に読んだ本です。
「起業家精神」=「アントレプレナーシップ」という言葉を聞いた時、多くの方は「独立心」などの言葉を思い浮かべると思います。しかし、福島さんはアントレプレナーシップについて、「いかなる状況においても自らの可能性を最大限に発揮して、道を切り開く人・精神」と定義しています。
「いかなる状況においても」というのがポイントで、私はこの本を読んで、起業家精神は、起業した経営者だけでなく、組織に属する全ての人が持つべき精神だと気づきました。そして「どんなに追い込まれて、どんなに成功の可能性が低い状況でも、自らの可能性を最大限に発揮して、道を切り開く人・精神」と私は捉えています。
本の冒頭に、「組織の人間は依存型から自立型に変わりましょう」という話が出てきます。通常の組織では、他者依存・他者管理・他者責任・他者評価・自己利益をベースにして働いている依存型人材が多いですが、自己依存・自己管理・自己責任・自己評価・他者利益を追求して働く自立型人材が増えることで、会社は最高のものになると提唱されています。営業所長として、メンバーに自立型人材になって欲しかったので、この本を何度も読み込んで自分の言葉で語れるように解釈し、いつも話していました。

理想を掲げることがアントレプレナーシップの芽生えにつながる
「いかなる状況でも自らの可能性を最大限に発揮して、道を切り開く生き方ができているか」と問えば、多くの方は出来ていないと答えます。そんなに追い込まれてまで頑張りたくないという気持ちもあるのだと思います。一方で、心のどこかでは頑張ってもっと感動ある人生にしたいとも思っている。その両方を行き来きしているのが人間です。
無意識にしていると少しずつ楽な方へと流れがちです。しかし頑張らなくていい状況になると次第に張り合いがなくなります。すると感動ある人生にしたいと再び頑張れることを探し始めます。例えば、私の知っている定年退職者の多くが、退職後に新しい挑戦を始めています。「お遍路さんに行く」と決意して四国を50日くらいかけて歩いたり、アイアンマンレースを始めたり。
そして、我々は結果が保証されていることに取り組んでも面白さを感じません。それは遊びでも仕事でも同じではないでしょうか?例えば、ボーリングで最初から300点(パーフェクト)が約束されていたらどうでしょう?不確かなことへの挑戦があるからこそ遊びも仕事も面白い。これがまさに起業家精神の根幹です。不確かなことに挑戦するための契機は「理想を掲げる」という行為にあります。真剣に理想を掲げると、いくつもの壁が立ちはだかります。その壁をどう乗り越えるかを日々考え、「こんなもんでいいか」ではなく「そこまでやるか!」と行動すれば、毎日が刺激的で起業家精神を持たざるを得ない人生に変わります。

ビジョンは何度も取り組むジグソーパズルのようなもの
理想を掲げることに関連して、ビジョンという言葉にも触れさせてください。アメリカで開催されたMDRT(Million Dollar Round Tableの略: 卓越した生命保険・金融プロフェッショナルの組織)の講演会に初めて参加した時に、ビジョンを描き、形にしていく行為は、ジグソーパズルのようなものだとの話を聴きました。ビジョンを描いて、ジグソーパズルのようにピースをひとつずつ埋めていくと、埋める場所が見つからないピースが必ず出てくる。その時は、過去に描いたビジョンにこだわらずにパズルを崩し、もう一度ビジョンを描き直してピースを埋めていく。埋まらなければまた描き直す。それをこれから先もずっと繰り返していくとの内容でした。
営業プレーヤー時代は、こういうものを手に入れたいとか、こんな生活を送りたいという個人的なビジョンを描き、たくさん売って、たくさん稼いでいました。ただ、どこかぽっかりと心に穴があいたような気持ちでした。その答えを必死に探し求めた結果、「経営」という言葉が頭から離れなくなりました。経営とは何なのか?色々な経営者の話や本を通じて学ぶ中で、経営とは「社会に貢献すること」「人を育てること」であると知りました。「そうか!人を育ててないからワクワクしないんだ!」と思った瞬間、もう一度ビジョンを書き直してマネジメントの道に進むことに決めました。営業所長になり、私の中に本当の意味で起業家精神が湧きました。保険を売りまくっていた頃よりも明らかにパワーがあったと思います。経営者となった今でも、埋める場所が見つからないピースがないか常に探していますし、もし見つかればいつでもビジョンを描き直すつもりでいます。