営業パーソンの糧になる本

本コーナーでは、営業パーソンとして確かなキャリアを積み上げられた方に伺った「自分の糧になった本」のインタビュー記事を掲載してゆきます。

中嶋哲さん(ソニー生命保険)が本の推薦を通して語る、営業パーソンに必要な「在り方」と「やり方」の極意:『ツキを呼ぶ魔法の言葉(講演筆録)』『営業の魔法』

中嶋哲さん

ソニー生命保険 横浜ライフプランナーセンター第5支社 支社長
1995年、富士銀行(2002年よりみずほ銀行)に入行。2003年8月、31歳でソニー生命保険に転職、ライフプランナーとしてのキャリアを踏み出す。転職時に、ライフプランナーの最上位資格であるエグゼクティブ・ライフプランナーに最短の6年で到達する目標を立て、実現。ほぼ同じタイミングでお世話になった上長が支社長に昇格。上長を盛り立てるため、ライフプランナーを極める道よりも、管理職の営業所長になる道を選ぶ。営業所長としてトップの成果を残し、6年務めた後、2016年4月支社長に昇進、現在に至る。(2017年11月時点)

私は営業パーソンには「あり方」と「やり方」の両方が必要だと考えており、それぞれ一冊ずつご紹介したいと思います。書店に平積みになっている本よりも、営業パーソンの間で口コミで広がっている本をピックアップしました。

まず「あり方」ですが、営業パーソンとして、そして人としての活動力の源泉は、自らの心のあり方、気持ちにあると思います。この大切さを教えてくれるのが五日市剛さんの「ツキを呼ぶ魔法の言葉(講演筆録)」です。私がソニー生命に入社して3年目くらいの時に先輩に紹介してもらいました。
内容を端的に表すと、自らが発する言葉は自らの心に大きな影響を与える、だから言葉には気を遣おうというものです。言葉は「言霊(ことだま)」とも言いますが、前向きな言葉を使う人は心も前向きになりますし、その逆もしかりです。営業パーソンとして仕事をしていると、思い通りにいかないことも起こります。その時、起きた事実の解釈の仕方によって、起きたことが成長の糧になるのか、失敗談に終わるかが大きく分かれる。前向きに解釈する言葉が出てくることが大切です。
この本で紹介しているツキを呼ぶ具体的な言葉は3つです。「ありがとう」「感謝します」 「ツイてる」。これらの言葉を常に発していると、色々なことが好転していく。これにつながる言葉を、ある著名スポーツ選手が語っていたことも印象に残っています。曰く、「乗り越えられない試練は与えられない」。試練が与えられた時に、「成長のための素晴らしい試練を与えてくれたことに感謝します」と言える人は、ぐんぐん伸びていくでしょう。逆に「なんだよ、ツイてないな、くそ」という人は伸びないと思います。
私はこの本を入社した皆さんに渡しています。その際に「壁にぶつかった時の一番の処方箋である」と伝えています。うまくいっているときは読まなくても良い。私もこの本を先輩からもらったあとしばらくは窓際の壁にずっとたてかけたままでした。そして公私ともにどん底の時に初めて読み、心のあり方を自ら変えるきっかけをもらいました。
営業の仕事を続けてきて学んだことは、ポジティブシンキングの大切さです。私の座右の銘は「人間万事塞翁が馬」。支社長になったときに、友人より座右の銘を聞かれて答えたところ、盾にして贈ってくれて、今も部屋に飾ってあります。

「やり方」について私が推薦する本は中村信仁さんの「営業の魔法」です。この本は物語仕立てで営業の「やり方」のポイントが記されています。ある空気清浄機を売る会社のダメ営業パーソンがいつも通り喫茶店でさぼっていると、敏腕営業パーソンが隣の席に座り、ものの1時間半で契約をまとめる場面に遭遇する。追いかけていき教えを乞うと、週に一回、1時間ずつレッスンを受けられることになる。その各レッスンが、本の各章としてまとめられています。「瞬間の沈黙」「売らない営業」「応酬話法」など。その内容が、私から見て実に実践的で役に立つ。明快で分かりやすい。12章ありますが、1章は15分ほどで読めます。私は入社1年以内の営業パーソンに対して、毎週1回、朝8-9時で勉強会を開いているのですが、その時にこの本を輪読しています。
なお「営業の魔法」も「やり方」だけでなく、「あり方」にも言及しています。例えば最後の章のテーマは「ポジティブシンキング」。本インタビューの前半で語っていたことに通じます。よく小手先の技術とか、相手を「丸め込む」ことがスキルだと誤解されていることがありますが、それは間違いだと思います。熱意のない上手な話よりも、多少たどたどしくても心のこもっている話の方が、お客様は動いてくださる。それがこれまで営業に長い間携わり、支社長も務めて行きついた答えです。


ソニー生命では週に2度、支社に所属するメンバーが全員が参加する、支社ミーティングという朝礼があります。私の恩師でもあるソニー生命元会長(現 同社顧問)の安藤国威氏から「支社ミーティングの場で何を語るかが、支社長の価値を決める」との言葉を頂いたこともある、支社長が皆に方向性を共有する大切な場です。この中で、実務的な内容を語ることももちろんありますが、私は人としての「あり方」を語ることを重視しています。人は生まれながらにある程度の運命が決まっているのかもしれませんが、自らの行いでより豊かにできる。特に3つの点をよく強調しています。1つ目は「掃除」。玄関をきれいにする、水回りをきれいにする、ごみが落ちていればすすんで拾うなど。掃除こそが凡事徹底の象徴ですし、風水でもよい気を呼び込むためには掃除が大切とされています。2つ目は「読書」。自分の人生だけでは学べないことが数多く詰まっており、一冊読むと人の何年分もの経験から学ぶことができます。3つ目は「陰徳」。誰かに見られているから善いことをするのではなく、見られていなくても善いことをする心がけです。例えばコピー機の紙がなくなっている時に率先して補充する、電車に乗っていてどんなに疲れているときでもご高齢の方が前に立ったら席を譲る、など。たまたま私が見かけたときには積極的に褒めるようにしています。


最後に私自身の「あり方」として大切にしているのは、常に挑戦し続けること、そして「迷った時はいばらの道」です。昔、上長が支社長になったときに、ライフプランナーの道を究めるのではなく、所長として支える道を選んだ時も、より困難で挑戦し続ける道であったことが理由の一つです。その際にも安藤国威氏から頂いた”You have nothing to lose”という言葉が今も心に残っています。