2017年6月28日

フィードバック – ロールプレイを効果的にする鍵 :: ロールプレイ(ロープレ)で営業成績を向上させる #2

#1 ロールプレイ(ロープレ)の目的整理と状況設定 – お客様の反応に焦点を当てよう
#2 フィードバック – ロールプレイ(ロープレ)を効果的にする鍵
#3 ロールプレイ(ロープレ)実施のHow to – “7 Steps”と仕組みづくりのTips

 #1ではロールプレイが効果的であるために、「お客様の関心/反応」に焦点を当て、「応対」を伴う内容にする重要性を記しました。#2ではもう一つの欠かせないキーワード「フィードバック」について、科学的な研究も踏まえながら、実務に役立てられるよう記します。

 ロールプレイが効果的であるためには、適切な内容で取り組む(前回の記事で書いた「お客様の関心/反応」に焦点を当て、「応対」を伴う内容にする)ことに加え、「行動変容」につなげられることが欠かせません。練習を繰り返して「こなれる」だけでなく、望ましい言動は再現できるようにする、望ましくない言動は改めることで、営業力を大きく伸ばせます。

 この「行動変容」につなげる具体的なきっかけが「フィードバック」です。「フィードバック」という言葉はかなり広まってきていますが、適切に行われないと、効果が無いばかりか、実践者が「ダメだし」と感じてしまい、ロールプレイに後ろ向きになってしまいかねません。

 ロールプレイをする上での、「適切なフィードバック」のポイントは以下の3点です。

1. 具体的な言動/事実に焦点を指し示す : 「どこを変えればよいか(あるいはどこを再現するべきか)」を具体的に伝える
2. 「あるべき姿」を伝え、現状との「差」の埋め方を示す : 「どう変えればよいか」を伝える
3. 実践者自らの客観視を促す

前提 – フィードバックは成長につながる”Formative Assessment”であるべき

 上記3ポイントの前提として、そもそもおさえると良い概念を1つお伝えしたいと思います。それは”Formative Assessment(フォーマティブ・アセスメント、形づくる評価)”を、”Summative Assessment (サマティブ・アセスメント、総括する評価)”との対比で捉えることです。両者の違いを認識すると、成長につながらないフィードバックを回避しやすくなります。

 ”Summative”は”Summary(要約)”や”Summarize(まとめる)”の兄弟語で、結果に対する評価を指します。例えば、「駅から取引先まで歩く」例を取りあげると、「駅から取引先のビルまで最短距離で来たね」や「ほかの人よりも3分余計にかかっているよ」などの評価(フィードバック)です。ロールプレイで見られる”Summative Assessment”をしている典型は、ロープレ大会などで各出場者のパフォーマンスを5段階評価することなどです。総合評価だけでなく、「論理性」「印象」などに細分化されていても、あくまで「結果」の要素分解であり、”Summative Assessment”には変わり有りません。
一方の”Formative”は「形づくる」という意味の”Form”からきており、”Formative Assessment”は、相手のより良い姿を形づくる評価を指します。例えば、「途中、コンビニのある角を左に右がったけど、真直ぐ進むともっと早く着くよ」などの評価(フィードバック)です。

"Formative Assessment"と"Summative Assessment"の対比

“Formative Assessment”と”Summative Assessment”のイメージ図

 “Formative Assessment”が”Summative Assessment”の対比として、最初に定義されたのは1967年のScrivenの論文で、その後、数々の研究がなされていますが、一言でいうと”Summative Assessment”は「直接的な学習にはつながらない (Sadler, 1989)」と されています。

 例えば、Maria ElawarとLyn Cornoが1985年に書いた論文では、小学六年生対象に、算数の宿題に対して「点数」のみを返した場合(すなわち”Summative Assessment”を返した場合)と、「どこが間違っており、どう直せばよいか。また少なくても一つ、良かった点は何か」の「文面」を返した場合(すなわち”Formative Assessment”を返した場合)の、成長の差を検証しています。504人の生徒を、点数のみを返すグループと、上記文面を返すグループに分けて実証実験を行いました。3回の宿題を挟んだ事前と事後のテストの結果を比べると、前者もスコアの伸びは見られたものの、後者の伸びは前者を統計上優位に凌駕しました。また「算数を面白いと感じるか」との問いへの答えの平均値は、前者は事前事後で差があまりないのに対して、後者は事後の数字が跳ね上がりました。

 “Summative Assessment”と”Formative Assessment”はそもそも目的が異なるもの(Sadler, 1989)とされています。前者は処遇や配置の意思決定材料となるものであり、後者は育成のためのものです。ロープレ大会で「順位を決める」ことだけが目的であれば5段階評価も目的に適っているでしょう。しかし育成が目的のはずの場において、5段階の数字を返すことに”ほぼ”終始していることが散見されます。評定を返すことと、成長に役立つフィードバック「どこを、どう変える」を返すことは別物との認識が大切です。

1. 具体的な言動/事実に焦点を当てる : 「どこを変えればよいか(あるいはどこを再現するべきか)」を具体的に指し示す

 「フィードバックは具体的で無ければ成長につながらない」という趣旨の言葉を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。既述の”Formative Assessment”の項のまとめにもなりますが、「具体的」とは、結果への評定を「論理性」「印象」などに要素分解することではなく、「『どこ』を変えればよいか(あるいは『どこ』を再現するべきか)」、具体的な言動/事実に焦点を当てること、との理解が大切です。

 ロールプレイを数多く実践し、成果につなげようと頭を捻ってきた育成担当者は、このことを良く理解しています。そしてロールプレイ中にフィードバック対象となる具体的言動のメモを良くとります。徹底していた例として、私がインタビューしたある医療系情報サービスの元営業人材育成担当者は、ロールプレイのオブザーブ時に、営業パーソン役とお客様役の発言をリアルタイムでタイプしてテキスト化し、終了後にその文字を皆で見て、発言内容を指さしながらフィードバックしているとのことでした。

 またこれはある重鎮の方から私がきいた話で、あくまで伝聞の域を出ませんが、米国の某IT系の大企業では、役員の会議力を高めるために、有名ビジネススクールの教授を役員会議に招き、会議の進め方や発言内容が不的確な場面があると、すかさずその教授が「会議を止めて」フィードバックする取り組みをしていたとのことです。コミュニケーション力を高めるには、具体的な「場面を捕まえる」ことが必要だと物語っている逸話だと思います。

 一方で、ロールプレイの実践現場では、フィードバックが”Summative Assessment”に終始している状況を多々見かけます。たとえば実例を一つ取り上げると、先輩の模範ロールプレイに対してフィードバックを求められた若手が「お客様の関心ごとを良く捉え、それに返す形で話を組み立てられているところがとても良かった。お客様とのキャッチボールができている」と答えていました。これは「とても誠実に対応できていた」などのコメントと比べると、かなり具体的です。しかし「どこの場面/言動」がお客様の関心を捉えたか、が明らかにされていません。それでは良い言動を再現できません(もしくは改善すべき言動を変えられません)。効果的なフィードバックには、例えば「お客様の『この会場はスクリーンが大きいのが良い』とのコメントに対して、『映像を色々とご活用されることをお考えですか』と返したことが、その後お客様が結婚式のイメージを色々と語ってくださることにつながった」などとコメントできることが大切です。

2. 「あるべき姿」を伝え、現状との「差」の埋め方を示す : 「どう変えればよいか」を伝える

 「どこを変えるべきか(現状)」が分かっても、「どう変えるか(あるべき姿)」が分からなければ、行動はなかなか変わりません。また変える「意欲が湧かない」ことが、実証実験から分かっています。

 例えばAlbert BanduraとDaniel Cervoneの実証実験(1983)では、90名の学生が体力テストに臨みました。エルゴメーター(Schwinn Airdyne製)というエアロバイクのような機械をどのくらい漕げるか測るものです。まず始めに、5分間漕いだ数字を測定。しばらく後、もう一度5分間漕ぐのですが、その際、学生は4グループに分けられました。1つのグループは「あるべき姿」を1回目の40%増と伝えられ、同時に「現状」も漕いでいる最中に「1回目よりも25%増」などの形で伝えられます。2つ目のグループは「あるべき姿」のみを伝えられ、3つ目のグループは「現状」のみを伝えられます。4つ目のグループはいずれも伝えられません。結果は以下の図の通りで、「あるべき姿」と「現状」の両方が伝えられた時に、パフォーマンスが大きく向上しました。

グループごとの平均向上率 (Albert Bandura and Daniel Cervone, 1983)

グループごとの平均向上率
(Albert Bandura and Daniel Cervone, 1983)

 第一回目の記事でも取り上げた、営業力に定評がある人材/情報系企業のマネージャーへのインタビューでは、新入社員がロールプレイを行う際は、同じテーマへのベテランの営業折衝を動画や実演などで見せて、対比できるようにするとの話も伺いました。

「ロールプレイが続かない理由」として、若手が「ダメだし」される場と感じてしまい、後ろ向きになることをよく聞きます。これは「現状」のみを指摘されることから来るものです。「現状」とともに、「あるべき姿」を示されれば、変え方が分かりやる気も湧くものです。ベテランが若手の前で模範ロールプレイを見せることは恥ずかしさもあるかもしれませんが、確かな育成効果があり、実施価値はとても高いと言えます。

フィードバックはあるべき姿も伝えることが大切

フィードバックは「あるべき姿」と「現状」との差を伝えること、しばしば定義される

3. 実践者自らの客観視を促す

 フィードバックは実践者に受け入れられて、咀嚼されて、はじめて効果を発揮します。そのために、1と2で述べた点に加えておさえるべき原則は「人は自らの言葉に動かされる」ことです。

 例えば、Robert Cialdiniの著書「影響力の武器」のなかでは、あるレストランにおいて「変更がありましたらご連絡ください」と伝えることを辞めて「変更がありましたらご連絡頂けますでしょうか?」と尋ねてお客様の返答を待つようにしたところ、無断キャンセルの割合が30%から10%に減った事例が取りあげられています。
 中原淳東大准教授は著書「フィードバック入門」の中で、「最も有用なのは、収集した相手の問題行動を、いわば「鏡」のように相手の目の前に映し出し、客観的かつ正確に事実を通知していくこと」と述べていますが、これは1で述べた「どこを変える」の伝達と併せて、本人の客観的事実に基づく内省が大切だと伝えています。

 ロールプレイを、部下が実践者、上司がお客様役で実施すると、終了後に上司が感じたことを一方的に伝えがちです。しかしぐっとこらえて、「●●のようなやり取りがあったことについてどう考えるか」などと、本人の語りを促すことが大切です。

 現在はスマートフォンやタブレットが普及しており、手軽に動画をとって見せられることは、とても大きな武器です。その際、ビデオを最後まで見た後にまとめてコメントを求めるのではなく、ビデオを該当箇所で止めて、その場面についての捉え方を聞き、本人からあるべき姿が出てこなかった場合には、上司が伝えるようにすることが大切です。

本人の客観視を促す

自己省察が大事

目指すは自己モニタリングができること

 第二回目の記事の最後に。1、2、3をおさえたロールプレイを繰り返すことで実践者が自らの行動を自己モニタリングできるようになり、実践中に軌道修正したり、自ら振り返りできるようになると立派な実力が身についていると言えます。

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【参考文献】
Albert Bandura & Daniel Cervone (1983) 「Self-Evaluative and Self-Efficacy Mechanisms Governing the Motivational Effects of Goal Systems」
D. Royce Sadler (1989) 「Formative Assessment and Design of Instructional Systems」
Dylan Wiliam (2011) 「Embedded Formative Assessment」
Maria Elawar & Lyn Corno (1985) 「A Factorial Experiment in Teachers’ Written Feedback on Student Homework: Changing Teacher behavior a Little Rather Than a Lot」
Robert Cialdini (2014) 「影響力の武器[第三版]」
中原淳 (2017) 「フィードバック入門」