2017年6月28日

ロールプレイ(ロープレ)の目的整理と状況設定 – お客様の反応に焦点を当てよう : ロールプレイを活用し営業成績を向上させる #1

 ロールプレイは営業力向上に大変有効な手段で、営業力に定評のある数多くの組織で導入されています。同時に、運用を工夫しないと、慣れていないメンバーに心理的抵抗感がしばしば生じる、相手をする人によって学習効果に大きな差が出るなど、幾つかの壁もあります。そのため扱いづらい(導入しづらい、続きにくい)と感じている方や、既に導入済みだがより効果的に運用できるはずと感じている方も多いのではないでしょうか。

 本稿では、これから営業力強化にロールプレイを活用していきたい、もしくは現在導入しているロールプレイを更に進化させたいと考えている営業組織のリーダー、マネージャー、もしくは営業コンサルタントの方々を読み手と想定し、実務に活きるロールプレイのポイントを述べてゆきます。弊社はリフレクトルを展開する中で、数多くのロールプレイに関わり、効果向上と定着を支援しています。その中で積み重ねている知見は、多くの営業組織で役に立つこともあるかと思い、筆を取りました。

 本稿の構成は以下の通りです

#1 ロールプレイ(ロープレ)の目的整理と状況設定 – お客様の反応に焦点を当てよう (本ページ)
#2 フィードバック – ロールプレイ(ロープレ)を効果的にする鍵
#3 ロールプレイ(ロープレ)実施のHow to – “7 Steps”と仕組みづくりのTips

営業のあるべき姿に近づくためのロールプレイをする

 ロールプレイを営業成績向上につなげる肝は何か。また、どうすれば取り組みが継続・定着するか。しばしば営業現場、人材育成の現場で聞かれる問いです。効果がなければ継続しないため、2つの問いはつながってもいます。

あるべき姿は「聞いて」「話す」の段階を踏むこと

 営業成績向上につなげるために、第一に確認すべきは、「営業のあるべき姿」は描けているか、「あるべき姿に近づくため」のロールプレイをしているか、です。裏を返すと、この2点を押さえていないロールプレイが散見されます。典型例は「商品説明などをほぼ一方的に行って終了する」ロールプレイばかりの実施です。「営業のあるべき姿」は会社によって差があるものの、特に高額な商品・サービスを扱い、お客様が真剣な検討を経て意思決定する場合は、商品・サービスによらず、「まずお客様の状況・ニーズをしっかりと聞く」「把握できた状況・ニーズに合わせて話をする」の段階を踏むことが欠かせません。

 この点については、ハスウェイト社の12年にわたる35,000件の営業実例調査が説得力あります。その一節では、一方的に話すことの弊害に触れています。要約すると「新商品発売時は、商品の特徴や利点の説明をする教育を受け、商品への思い入れが高まることで、商品の特徴を伝える回数は、既製品を売る場合の5.9に対して新商品を売る場合では18.3に増え、代わりに質問の回数が24.2から15.8に低下した。これが不振要因となる。そこで一部の人々に、新商品の特徴・利点を説明する教育の代わりに、新製品が解決できる課題のリストアップと潜在顧客訪問時の質問を考えてもらったところ、説明をする教育を受けた人々に対して、後者の人々の売り上げは54%高かった」旨が報告されています。

営業商談が踏むべき段階

営業商談が踏むべき段階

「説明」が目的でも、「一方的に話して終わり」の営業商談などない

 「説明力向上」がテーマであっても、「営業商談における説明のあるべき姿」はお客様の課題をしっかりと聞き出して、その課題とつなげて説明できることです。また説明しながら聞き手の理解を確認し、説明後はお客様の理解を確認し、不足を補う、関心が深まったところは追加の情報提供や討議をする、ことがとても大切です。業績向上につながるロールプレイは、このあるべき姿を再現するものである必要があります。

一方的に話す「悪い癖」をつけないように

 営業の一方的な説明からロールプレイを開始し、説明が一通り終わるとそこで打ち切る訓練ばかり*をすると、本番でも自然と「自分が話す」に偏り、返って成績を落としかねないことを留意しておくべきです。
 なお、「それでは毎回本番と同じ1時間のロールプレイが必要か」との疑問もでるかと思いますが、不要です。本番で必要となる複数のスキルや知識のうち、一つに焦点を絞って取り組んだ方が、フィードバックも消化しやすいでしょう。多くの場合10分ほどで足ります。

有意義なロールプレイには、「お客様役」によるお客様の状況・ニーズの理解が大切

 さて、「営業のあるべき姿」に近づくロールプレイでは、「お客様の状況・ニーズをまずしっかりと聞く」ことに挑むため、有意義なロールプレイには、「お客様役」による実際のお客様の状況・ニーズの理解が大切です。

「お客様役」を作りこむことで、ロールプレイが上手くいくようになった

 例えば、私がロールプレイについてインタビューをした、営業力に定評のある事務機器会社で営業組織のマネージャーを務めていた方は、試行錯誤の末、2つの形のロールプレイの定期的な実施に落ち着いたといいます。
 一つは若手育成を目的とし、若手が営業パーソン役を担い、メンターやブラザーと言われる先輩がお客様役を務める形です。このケースではマネージャーと先輩が若手の育成計画を描き、若手が身につけるべきスキルについてすり合わせたうえでロールプレイを実施していたといいます。もう一つは、新製品導入時に、営業パーソンが集まった場で代表者が実施する形です。全営業パーソンが新商品を効果的にお客様に紹介できる方法を学ぶことを目的としたものです。
 このうち後者の新商品導入時のロールプレイは、始めた当初、うまく機能しなかったといいます。転換点は、皆の前でロールプレイをする人たちが、特にお客様役のあり方について、事前に綿密に打ち合わせるようにしたことでした。そのことでお客様の「反応」が代表者にとっても観察者にとっても納得感あるものになりました。
 なお前者の若手育成について、当該事務機器会社では先輩/上司がお客様をよく知っていたため、特段の準備をしなくても効果的なロールプレイを実施できたといいます。ところが、別の会社の営業部隊の育成に関わる機会があった際に、同様にロールプレイを持ち込んでも定着しない。その違いは、先輩/上司がお客様先に同行する文化の有無ではないかとのことでした。「当該事務機器会社では上司が頻繁に同行していたため、同行直後にフィードバックできるだけでなく、貴重な本番の前のリハーサル・ロールプレイの相手も効果的に務められた。同行は時間がかかるが、それだけの価値がある」との考えでした。

ロールプレイでお客様役を務めることは、お客様理解を深め、営業力向上につながる

 若手がお客様役を務める際に、必要に応じてフォーマットを用いてお客様像を整理している事例もあります。事前準備によりロールプレイの質が高まることに加えて、実際に接客・商談したお客様について、把握したことを紙に落として上司/先輩と議論すると、お客様への理解を深められます。またもっとお客様に聞くべきだったことも見えてきます。そしてロールプレイでお客様役を務めると、セールスパーソンの言動に対するお客様の受け止め方も実感できます。

 お客様理解は良い営業パーソンの必須条件です。ロールプレイでお客様役を務めることは、営業役を務めることと同じくらい重要で、また異なる角度から営業力を高めることに効果的です**。

* こうしたロールプレイが全く意味無いわけではなく、ある商品やサービスの説明をほとんどしたことが無い時には、「話す」のみの繰り返しも効率的でしょう。その上で、お客様の前にでるまでのトレーニングの総量が「話す」に「偏っていない」ことが大切です。営業力が定評の、ある人材/情報系の企業のマネージャーへのインタビューでは、「新人を9か月で育成するプログラムを組んでおり、初期は「話す」ロープレが大半を占め、後半になるにつれて応対重視のロープレの比重が高くなる。ロープレは基本的に毎日行う」とのことでした。

コミュニケーション力向上のプロセス

コミュニケーション力向上のプロセス

** Erringtonは”ROLE-PLAY (1997)”のなかでロールプレイには4つのタイプがあると整理しました。A. 「スキル習得」が主軸のアプローチ、B. 「イシュー(関係者の関心ごと/意思決定要因)の把握」が主軸のアプローチ、C. 「よく起こる問題への対処」が主軸のアプローチ、D. 思索を広げるためのアプローチ、です。これを私なりに図に描いたのが、図1です。まず4つのアプローチは、主たる関心の対象が自分か、自分以外かが異なります。これを横軸で切り分けました。また、C. D. は、A. B. の発展形と位置付けられると縦軸で切り分けました。ロールプレイは「自分ができるようになる」ためだけでなく「他の人を理解する」ためにも実施されるとの整理です。

ロールプレイ(ロープレ)の態様の整理

ロールプレイ(ロープレ)の態様の整理

#2 フィードバック – ロールプレイ(ロープレ)を効果的にする鍵へ進む

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【参考文献】
Edward Errington (1997) 「Role Play」
Neil Rackham「大型商談を成約に導く『SPIN』営業術」